第192話 地属性の魔石

「あ、外れた!!凄~い、ナイ君……じゃなくてナイちゃん!!」

「何で言い直したんですか……これ、どうします?」

「持って行っていいんじゃないの?魔石は高値で買い取ってくれるから、それに何かに使えるかもしれないし……」

「じゃあ、本棚を動かせるか試す」



ナイは取り外した地属性の魔石は一応は回収し、その後はミイナともう一度本棚を動かせるのかを試す。その結果、今度は本棚を簡単に持ち上げる事に成功し、遂に本棚の裏側の通路が出現した。



「おおっ……本当に動かす事が出来た」

「やっぱり、地属性の魔石のせいで本棚の重量が増加していたのね。見てよ、本棚の下の部分だけ鉄板になっているわ」



地属性の魔石を外した途端に動いた本棚の下側は鉄板が敷き詰められており、ヒナの推測だと本棚の重量で圧し潰されない様に設計されていたらしい。恐らくだがこの地属性の魔石が嵌め込まれている間は本棚の重量が増加し、巨人族でも動かせない程の重量を常に維持していたのだろう。


バーリが隠し通路を利用したい時はこの地属性の魔石を逆に利用し、重力を変化させて重量を減らす。重力を操作する術があるのならばどんな重い物体でも軽くする事が出来るため、それを利用してバーリは一人で本棚を動かし、中に入っていたのかもしれない。



「あの豚商人が身に付けていた指輪、もしかして全部が魔道具かもしれないわ」

「えっ!?」

「なるほど……あの指輪が全部魔道具だとしたら捕まえる時は気を付けないといけない」

「そうね、あの指輪には気を付けましょう。もしも油断してやられたらひとたまりもないわ」



ナイはバーリの両手に嵌め込まれた指輪を思い返し、あれが全て魔道具だとしたら確かに油断ならない。バーリを捕まえれば何とかなると思ったが、彼が魔道具を身に付けているとしたら決して捕まえるだけでは安心は出来ない。


魔道具の厄介さはナイもよく知っており、もしもゴマンの盾の様にバーリが身に付けている魔道具の中で身を守る効果を発揮する魔道具があれば、そう簡単には彼を捕まえる事は出来ないかもしれない。



(もしもあの時にバーリを捕まえようとしていたらまずかったかもしれない……)



バーリと最初に会った時、ナイは彼が傭兵のダンを呼び寄せる前に捕まえていればどうにかなったのかと思っていたが、バーリが大量の魔道具を身に付けているとなると話は別である。


次にバーリと遭遇した時はナイは彼が魔道具を使用する前に捕縛する必要があり、自分も改めて武器が必要になると思った。この隠し通路の奥にあるはずの倉庫にミイナが奪われた「如意斧」とは別の武器があればそれを持っていこうと判断する。



「さあ、早く行きましょう。他の奴がここへ来る前に急がないと……」

「それならば私が見張りを行います。ついていっても役に立たないでしょうし……」

「え~?それなら私もここに残るよ。ノイさんも心配だし、それに私なら素手でも戦えるからね!!」

「それもそうね……分かった、ならここは二人に任せましょう。ノイさん、うちの子をお願いします」

「え?あ、はい……わ、分かりました」



ノイは自分にモモを任せるという言葉に戸惑い、普通ならばモモに自分を任せるというのが正しいのではないかと思うが、承諾する。ナイ達は二人に見張りを頼むと通路の奥へ移動する。



「この扉の先が隠し倉庫みたいね……お宝もあるかしら」

「あったら少し持って行こう」

「あの……ミイナさん、王国騎士見習いでしたよね。大丈夫なんですか、それ」

「はっ……しまった、欲望が抑えきれなかった」



治安を守るための王国騎士が悪徳商人とはいえ、堂々と盗みを行う発言をするのは問題がある(それを指摘したナイ本人も地属性の魔石を回収しているのでそれ以上の事は何も言えないが)。


扉の前に立ったヒナは鍵を掛けられていない事を確認すると、二人に確認を取った後に中に入り込む。罠の類が仕込まれているんじゃないのかと警戒したが、それも杞憂だったらしく、部屋の中は割と普通の倉庫だった。



「ここが隠し倉庫……意外と普通ね」

「もっと凄い場所を想像してた」

「確かに……」



隠されていた割には部屋の中は拍子抜けするほどに殺風景であり、倉庫の中には大量の木箱が並べられていた。この木箱の中身がこの国では違法に取り扱われている荷財だと思われ、念のために中身の確認を行う。



「これは……見て、こんな物まで取り扱っているなんて……」

「何ですか、それ?」

「マンドラゴラ……植物型の魔物の一種、取り扱いに気を付けないと命を落としかねない危険な植物」

「えっ!?」



木箱の中に入っていたのは人の形をした根っこの植物であり、それを見たヒナとミイナは顔色を変える。二人によるとこれはただの植物ではなく、マンドラゴラと呼ばれる魔物らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る