第191話 書斎の隠し通路

――ノイの協力の元、彼女の案内でナイ達は書斎へと向かう。この途中で兵士達に見つかっても怪しまれないようにノイは使用人の服を渡してくれ、今度は使用人の服に着替えてからナイ達は向かう。



「ここの使用人の服、妙に露出が多いわね……これもあの豚商人の趣味かしら?」

「スカート、短い……」

「でも、動きやすいね。私は気に入ったよ」

「ううっ……どうしてこんな格好」

「お似合いですよ、ですからそんなに恥ずかしがらなくても……」



ナイ達が渡された使用人の服は何故か妙に露出が多く、ノイによると新人はこちらの服を着用する義務があるという。既にナイ達の顔を知られているかもしれないが、この服を着こんでいれば怪しまれる可能性は低い。


5人で行動していると怪しまれるかもしれず、ナイ達は表向きは仕事をしているふりをするため、それぞれが籠を担いでいた。この屋敷には大勢の人間が暮らしているため、洗濯物を集めているふりをして屋敷を移動する。



「ノイさん、色々とありがとうざいます。必ず、この屋敷の商人を捕まえて自由にさせてあげますからね」

「……はい、よろしくお願いします。家族にまた会えるのなら……私は何でもします」

「大丈夫よ、必ずあの豚商人の悪事を暴いて豚箱に送り込んでやるわ」

「え?箱に詰めるの?」

「そういう意味じゃないと思う」



ヒナの言葉にモモはボケるが、ミイナが突っ込む。そんなやり取りを繰り返しながらもナイ達は目的地の書斎へと辿り着く。この部屋の中に隠し通路が繋がっているらしく、緊張気味にノイは振り返る。



「では、開けます……皆さん、準備はよろしいですか?」

「ええ、問題ないわ」

「武器さえ取り戻せば戦える」

「お願いします」



ノイにナイ達は頷くと、彼女は意を決したように書斎の扉を開く鍵を取り出す。鍵の管理も使用人が行い、丁度彼女は書斎の掃除も行うために偶然にも持ち合わせていた事が幸いした。


扉を開くと中の方は思っていた以上に広く、多数の本棚が並べられていた。書斎というよりは図書館を想像させ、この部屋の壁際の本棚に仕掛けがあるという。



「確か、バーリはこの本棚の奥から出てきたのですが……」

「この本棚か……ミイナさん、手伝ってくれる?」

「分かった」



ナイとミイナはノイが示した本棚に手を掛けると、二人がかりで本棚を動かそうとした。だが、二人が力をあわせても本棚はびくともせず、まるで床に固定されたように動かない。



「ふぎぎっ……」

「ていっ、ていっ……駄目、動かない」

「貴方達でも動かせないなんて……きっと、何か特別な仕掛けがあるのね」

「でも、動かせないならどうやって通ればいいの?」

「もうしわけありません、本棚を動かす方法までは私も……」



怪力自慢の二人でも動かせないとなると本棚の仕掛けを解くしかなく、残念ながらノイも仕掛けに関しては知らないという。彼女はあくまでも本棚から出てきたバーリを見かけただけであり、彼がどうやって本棚を開いたのかまでは分からない。


ここでヒナは本棚を調べ、1冊ずつ本を抜いて調べ始める。この時に彼女は本棚の隅の方に茶色の魔石が嵌め込まれている事に気付き、それを確認した彼女は魔石の色合いを見てバーリが身に付けていた指輪にも茶色の宝石があった事を思い出す。



「この本棚、地属性の魔石が嵌め込まれているわね」

「地属性?」

「土砂を操作したり、重力と呼ばれる重量を増減させる力を操作すると言われる魔法よ。使い手があまりにも少ないから知っている人は滅多にいないけど……この本棚を動かすにはどうやらバーリが身に付けていた指輪が必要かもしれないわ」

「そんな……!!」



ヒナの言葉にノイが愕然とするが、ナイ達にとっても都合が悪かった。バーリを捕まえるためにここまで来たと言うのに、そのバーリが本棚を開く指輪を持っているとなるとこの本棚はどうしようも出来ない。


ここまで来たというのにノイは膝を崩し、諦めた表情を浮かべた。そんな彼女にヒナは不憫に思って肩に手を置くが、ここでナイはある事に気付く。



「ヒナさん、この本棚が動かない理由はこの地属性の魔石が嵌め込まれているからですか?」

「ええ、その通りよ。きっと、この地属性の魔石で本棚の重量を変化させているのね」

「なら……その地属性の魔石を外せば本棚を動かせるんじゃないですか?」

「……そうね、確かにその可能性もあるわね」



ナイの言葉にヒナは意表を突かれた表情を浮かべ、その発想には至らなかった。仕掛けを解除するにはバーリの指輪を奪うしかないと思われたが、その仕掛けその物を取り外せば本棚に入れる可能性はある。


刺剣を取り出したナイは「器用」の技能を生かし、魔石を取り外すために刃を差し込む。嵌め込まれている箇所に刃を差し込み、ゆっくりと力を込めて引き剥がす。すると、地属性の魔石は割と簡単に取り外す事が出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る