第190話 倉庫

「けど、武器を取り戻すと言っても何処に保管されているのか分からないと……」

「そういえば敷地内に確か倉庫と思われる建物を見かけたわね。そこに保管されているのかしら?」

「え~?あそこまで行くの?」



バーリの屋敷には荷物を保管するための倉庫は屋敷内ではなく、敷地内の別の建物に保管されている。奪われたミイナの武器もそこに保管されているかと思われたが、ミイナは首を振った。



「私が牢に入れられた時、見張りの兵士がいた。そいつらの会話を盗み聞きした時、私の如意斧はここで保管されているみたい」

「この屋敷に?」

「私が扱う如意斧は魔斧の一種、つまり希少価値がある。そこいらの宝石よりもよっぽど価値があるからバーリも手元に置いておきたかったのかもしれない」

「そういえば前にテンさんが言ってたわね。あの魔斧は売り払えばとんでもない価値があるとか……バーリもその事を知っていたのかしら」

「という事は……この屋敷の何処かに如意斧は保管されている?」



ナイはバーリの私室に訪れた時の事を思い出し、あの部屋には絵画や石像などは置かれていたが、如意斧らしき物はなかった。そうなると広い屋敷内を探し回るしかないと思われた時、ナイの気配感知に反応があった。



「待って……誰かがこっちに近付いてくる」

「えっ!?」

「しっ……丁度いいわ、兵士だったらそいつを捕まえて如意斧の居場所を聞き出しましょう」

「賛成」



ヒナの提案にナイとミイナは頷き、接近する気配を頼りにナイ達は身を隠す。とりあえずは近くの部屋にヒナとモモは隠れ、ミイナの方は通路に置かれている石像に身を隠し、ナイの方は曲がり角で待機する。


曲がり角から足音が鳴り響き、ナイは緊張しながらも角を曲がった瞬間に出てくた瞬間に捕まえようとしたが、この時に足音以外にも車輪が動くような音が聞こえた。それを耳にしたナイは驚いて立ち上がり、角から飛び出す。そのナイの行動にミイナは驚くが、角を曲がろうとした人物も驚愕の表情を浮かべた。



「あ、貴方は……!?」

「さっきはどうも……あの、少し話しませんか?」



歩いてきたのは先ほどナイ達の事を見逃してくれた使用人であり、車輪の音は彼女が運ぶ台車だと気付いたナイは正体を現し、彼女に協力を申し込む――






――その後、使用人の女性と共にナイ達は誰も使っていない部屋に入り込み、彼女から事情を問い質す。どうやら彼女も連れされられた一般人だったらしく、彼女は元々は他の街の住民で1年ほど前に王都にいる親戚の元へ来た時、連れ去られたという。ちなみに彼女の名前は「ノイ」だと判明した。



「私はここへ連れられてからずっとあの男の世話をさせられています……何度か逃げようかと思いましたが、もしも捕まれば命はありません。実際に逃げ出そうとして捕まった人間も何度も見ました」

「そ、その人たちはどうなったの?」

「命までは奪いません、しかし二度と逆らえないように「教育」が施されます。どのような事をされたのかは分かりませんが、解放された時は人形のように無表情となり、与えられた命令だけに従う忠実な僕となります」

「教育……それって、まさか地下牢に書いてあった?」

「きっと、その人達は地下に捕まって酷い拷問を受けた。その時に洗脳も受けたのかもしれない」

「なんて酷い事を……」



想像以上のバーリの悪行にナイは怒りを抱き、どうして自分はバーリと対峙した時に捕まえなかったのかと後悔する。しかし、今は嘆いている暇はなく、この屋敷に暮らしているノイならば奪われたミイナの「如意斧」の居場所を知っているかを尋ねる。



「実は俺達は武器を探してるんです。外見は戦斧なんですけど、魔斧の一種できっとこの屋敷の何処かに保管されているはずなんですけど……」

「戦斧、ですか?」

「そう、私が捕まった時に奪われた。でも、必ずこの屋敷の何処かにあるはず……」

「そういった物は見かけていませんが……ですが、心当たりはあります」

「えっ!?」



ノイは1年もこの屋敷に暮らしており、屋敷の内部は把握していた。それでも彼女が仕事中に訪れた部屋の中にはミイナの如意斧は見かけなかったが、その手の物が保管されている場所には心当たりがあるという。



「この屋敷には地下牢とは別に隠し倉庫があります。この国では違法の品物などを保管する際に利用されます」

「隠し倉庫……!?」

「隠し倉庫が存在するのは書斎です。書斎の本棚の裏側に通路が存在し、その奥に隠し倉庫があります」

「どうしてそんな事まで知ってるの?いくら使用人だからって、隠し倉庫まで教えてくれるはずはないでしょう」

「はい……私が知ったのはあくまでも偶然です。書斎の掃除を行っていた時、勝手に本棚が動いて隠し通路から出てくるバーリの姿を見かけました。普段は付き人を同行させているんですが、この時のバーリは一人で行動していました」

「なるほど……なら、書斎に行くしかなさそうね」 



ナイ達はノイの話を信じて書斎に向かう事を決め、外で待機しているヒイロには悪いが、ここはノイの協力の元、書斎の隠し倉庫に向かう事にした――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る