第172話 テンの子供達

「ううん、私の場合は回復魔法じゃなくて……」

「モモ!!それは言っちゃ駄目だと言われたでしょ!!」

「あっ!?ご、ごめん!!今のは無しで!!」

「え?あ、はい……」



ヒナに言われてモモは慌てて誤魔化そうとするが、ナイとしては彼女が回復魔法ではない方法で傷を治せるという言い方が気になった。回復魔法以外に傷を治す方法などあるのかと思ったが、二人の様子から察するにこれ以上に話を聞けそうにない。



(回復魔法でもないのに怪我を治す方法なんてあるのかな……)



ナイとしてもモモが何を言いかけたのは気になりはしたが、二人が話すつもりはないのならば仕方ない。そう考えたナイは他に気になる事を尋ねる。



「あの、ミイナさんはテンさんとはどういう関係なんですか?」

「ミイナは小さい頃、というか私達も全員が女将さん……いや、テンさんに拾われたのよ。だからテンさんは私達の育ての親なの」

「へえ、そうだったんですか」

「……軽いわね、この話をするとだいたいの人が気まずそうにするんだけど」



自分達が捨て子である事を話してもナイが少しだけ驚いただけで特に他に反応を示さない事にヒナは不思議に思うが、捨て子という意味ではナイも同じである。最も彼の場合は赤子の時に森の中でひっそりと捨てられたので親の顔も覚えていない。



「僕も赤ん坊の時に捨てられて……」

「えっ!?そうだったんだ……でも、赤ちゃんを捨てるなんて酷いね」

「可哀想に……って、私達が同情しちゃったわ。でも、そっか……君も実の両親から身勝手に捨てられたのね」



ナイが捨て子だと判明するとヒナとモモも同族意識を抱いたのか椅子を近づけて距離を詰める。尤もナイは自分が捨て子だからといって悲観した事はなく、捨てられたお陰でアルに拾われる事が出来た。


実の両親が赤ん坊の頃に自分を捨てた事に対してはナイは怒りや恨みも抱かず、むしろ捨てられていなければアルに出会えなかった。だからナイは両親を憎む気にはなれず、その反対に会いたいと考えた事もない。



(両親か……忌み子として生まれなければ今も一緒に暮らしていなかったのかな?)



アルによるとナイを拾い上げた時は手紙も一緒にあったが、その内容はあまりにも酷かった。赤ん坊であるナイを誰かが偶然見つけても育てないように書かれており、それを見たアルは憤慨して手紙を破り捨てたという。だからナイは親と呼べるのはアルだけであり、今更実の両親が現れたとしても親と認めるつもりもない。



「話は戻すけど、私達は両親に捨てられて途方に暮れていた頃、テンさんと出会ったの。だからこうして生きていられるのはテンさんのお陰……まあ、その代わりに馬車馬のように働かされているけどね」

「へえ……でも、ミイナさんはどうして騎士に?」

「ミイナは私達と違って戦闘の才能があったからね。だからテンさんが昔の伝手で別の街の騎士団に入れるようにしてあげたんだけど……あの子、問題を起こして今はこっちに戻ってきて王子様の騎士をやっているらしいの」

「ミイナちゃんは凄いんだよ~私達の中で一番ちっちゃいのにテンさんに負けないぐらい力持ちなんだよ!!」

「あ、それは知ってます」

「あの子の強さはテンさん仕込みよ。正直言って、今戦ったら勝てる気がしないわね……」



ミイナも二人と同じく幼少の頃にテンに拾われたが、彼女は才能があったので今はテンの元を離れて騎士として働いているという。尤も才能と力はあっても本人はやる気がなく、職務を忠実に全うしているとはいいがたい。


それでも同僚のために助けに出向いたり、悪党を放置する程の不真面目というわけでもなく、ヒイロとはよく言い合いしながらも仲は良さそうにナイには見えた。



「ちなみにミイナの戦斧は元々はテンさんが持っていた武器の一つよ。知っている?あの子の武器は魔斧といって魔剣と同じ類の魔道具なの」

「魔斧……やっぱり」



戦闘中にミイナの戦斧の柄が伸びた事を思い出し、ナイはやはり彼女が所持していた武器が魔剣と同じ類の武器だと知って納得する。ゴマンの盾やヒイロの魔剣「烈火」と同様に特別な力を持つらしく、彼女の戦斧の正式名称もここで初めて教わる。



「あの魔斧の名前は「如意斧」あの子の持っている斧は本人の意志に応じて柄の長さを調整できるの。本人によると何処までも長く伸ばせるけど、重さ自体は変わらないし、それにあまり伸ばしすぎると硬度が落ちて壊れやすくなるそうよ」

「如意斧……変わった名前ですね」

「あの戦斧はね、テンさんがまだ騎士になる前に冒険者をやっていた頃に見つけた物なんだって。前に私も持たせて貰った頃があるけど、凄く重くて腕が痺れちゃった」



ナイの旋斧と同様にミイナの如意斧も相当な重量があるらしく、それを軽々と扱えるのは元の持ち主であるテンか、それを受け継いだミイナぐらいだという。


魔斧という魔道具が存在する事を知ったナイは部屋に置いてきた旋斧を考え、もしかしたら自分の旋斧も魔道具の一種ではないかと思う。実際に元の持ち主だったアルによると旋斧は特殊な金属で構成されており、ただの剣ではない事は確かだった。

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