第173話 急変
――ヒナとモモと談笑を終えた後、ナイは部屋に戻って休む事にした。金策に関しては明日に改めて考える事にして今夜は眠ろうとした時、深夜で部屋の外から声が聞こえてナイは目を覚ます。
「何だ……何かあったのか?」
ナイは何事かと思って扉を開けて様子を伺うと、どうやら宿の受付の方から声が聞こえてくる事に気付き、不思議に思いながらも聞き耳を立てる。するとテンたちの声が聞こえてきた。
「おい、大丈夫かい!?モモ、早くこいつを治しな!!」
「う、うん!!」
「す、すいません……」
「酷い怪我……いったい何があったのよ!?」
聞き覚えのある声を耳にしてナイはテン達が騒いでいる事に気付き、その中にはヒイロの声も聞こえた。何事かとナイは部屋の扉を開けて受付の方に近寄ると、この時に驚くべき光景を目にした。
――身体中に切り傷を負ったヒイロをテンが支え、そんな彼女に対してモモは掌を握りしめると、聖属性の魔力のような光が放たれる。それを見たナイは彼女が回復魔法を使ったのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。
桃の掌から放たれた光はヒイロの身体に移動すると、彼女の身体全身が光り輝き、まるで時を戻すかの様に傷跡が塞がっていく。その後はヒナが彼女の身体を拭いてやると、ヒイロはまるで最初から怪我など負っていなかったように傷が完全に消えていた。
「ふうっ……ヒイロちゃん、大丈夫?」
「はい、身体は楽になりました。もう大丈夫です……」
「良かった……それで、何があったのよ?」
ナイは彼女達の様子を見ながら隠密と無音歩行を発動させ、何が起きたのかは気になるが、念のためにもう少しだけ様子を伺う。怪我して訪れたヒイロに対してヒナとモモは心配するが、テンは険しい表情を浮かべる。
「さっきの怪我、誰にやられたんだい?」
「……人攫いの連中です、夜の見回りの途中で襲われ、不覚を取りました」
「人攫い!?最近噂になっている奴等かい!?」
「でも、その人攫いは捕まえたんじゃないの?私達はそう聞いていたけど……」
ヒイロがやられたのはこの近辺で人攫いを行っている連中に怪我を負わされたらしく、昼間に捕まえた4人は人攫いの組織の末端でしかなかったという。
「いいえ、私達が昼間に捕まえたのはただの下っ端です……ですけど、仲間を捕まえた報復として奴等は私達を襲ってきました。それで私を逃がすためにミイナさんが囮に……」
「そんなっ!?」
「ミイナちゃんはどうしたの!?」
「分かりません、私にここへ向かうように伝えた後、たった一人で奴等に立ち向かって……」
「そういう事だったのかい……くそっ!!」
テンは苛立ちを隠せずに床に拳を叩きつけると、軽い振動が走る。テンからすればミイナは子供の頃から面倒を見ているため、娘に等しい存在である。
ヒイロは彼女を囮にして自分だけがここへ来た事に申し訳なさそうな表情を浮かべるが、すぐにミイナを助けるために立ち上がろうとした。
「早くこの地区の警備兵に救援要請をしなければ……」
「馬鹿を言うんじゃないよ、人攫いの連中だって馬鹿じゃない。きっと、あんたが他の連中に助けを求めない様に張っているはずさ」
「それならどうすれば!?」
「決まってんだろ……ヒナ、モモ、ここはあんた等に任せるよ。私があの馬鹿娘を助けに行ってくる」
「女将さん!?」
怒りの表情を浮かべたテンは拳を鳴らしながらヒイロの事をヒナとモモに任せると、ミイナの救出のために自ら出て行こうとした。そんな彼女に対してヒイロは慌てて引き留める。
「む、無茶です!!一人で行くなんて……どうしても行くというのなら私も行きます!!」
「……気持ちは有難いけどね、あんたも病み上がりだろ。その状態じゃ、すぐに動く事は出来ないだろう?」
「平気です、怪我は治りました……うっ!?」
「無理は駄目よ、血を流しすぎてふらふらじゃない!!」
「動いちゃ駄目だよ!!ほら、大人しくしててね!!」
ミイナの救出のためにヒイロは立ち上がろうとするが、身体がふらつき、すぐに二人に抑えつけられる。怪我は治っても流した血までは元に戻る事はなく、現在の彼女は貧血状態に陥っていた。
テンはヒイロの事を二人に任せると、覚悟を決める様に頬を叩き、ミイナを救うために外へ移動しようとした。だが、この時に彼女は後ろの方から物音が聞こえ、扉が閉じた様な音を耳にする。
(何だい?あの坊主が起きたのか?)
音が聞こえたのはナイが宿泊している部屋の扉であり、疑問を抱いたテンはヒイロを襲った連中がこの場所を嗅ぎつけ、忍び込んできたのではないかと思う。
(まずい、あの坊主が危ない!!)
まさか敵がナイの部屋に忍び込んできたのかと思ったテンは慌てて彼の部屋へと向かうと、他の者はテンの行動に驚く。テンは扉に手を掛けると、鍵が掛かっていない事に気付き、扉を開いて中を確認する。
「坊主!!無事か……!?」
しかし、テンが開いた先には部屋の中はもぬけの殻であり、ナイの姿は見えず、窓だけが開け放たれていた――
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