第171話 最強と謳われた騎士団

――20年近く前、この国では最強と謳われた王国騎士団が誕生した。その名前は「聖女騎士団」と呼ばれ、民からは「ワルキューレ」とも呼ばれていた。所属する騎士は全員が女性で統一され、それを指揮するのは王妃であった。


この国では王族が騎士団を指揮する特権があり、それは王妃であっても例外ではない。彼女が国王と結婚した際、騎士団を結成する権利を与えられた。尤も歴代の王族の中で王妃が騎士団を作り出したのは後にも先にも今の王妃だけである。


王妃は元々は国の騎士として仕えており、国王とは昔からの付き合いだった。騎士の時代から彼女は誰よりも武勇に優れ、その名前は他国にも知れ渡る程である。やがて国王が即位した時に彼女を妻として迎え入れようとしたが、妻になる条件として騎士団を結成する事を約束する。


国王の妻となり、王族となった事で王妃は自分だけの騎士団を作り出す。構成員は女性のみで統一され、女騎士だけの騎士団を作り上げた。これまでに女性だけで構成された騎士団など歴史上を探しても存在せず、国王や民は不安を抱いたがすぐにそれは杞憂だと証明された。


王妃が指揮する聖女騎士団は他の騎士団の中でも群を抜いて功績を残し、いつしか国内においても最強の騎士団と謳われた。その知名度は国王の猛虎騎士団をも上回り、外国からも聖女騎士団の存在は恐れられたという。





――しかし、この最強の騎士団は数年前に突如として解散する。その理由は王妃が病で死亡した事により、騎士団を指揮する者はおらず、聖女騎士団は解散を言い渡された。国内最強と呼ばれた聖女騎士団ではあったが、その要を担っていたのは王妃であり、その王妃がいなくなれば聖女騎士団は維持できない。


王妃の死後は聖女騎士団の面子は彼女以外の騎士団に入るつもりはなく、そもそも彼女達が仕えていたのは国ではなく、王妃その人であった。女騎士達は一人残らず引退し、姿を消す。





そんな聖女騎士団に所属し、副団長として活躍していたのが「テン」であるという話をナイは二人の従業員から教えてもらった。客達が帰った後、ナイは夜中に呼び出され、誰もいない食堂にて二人と共に夜食を味わう。



「今日は本当に助かったよ。あんたのお陰でこっちも手を出さずに済んだからね」

「もう、ヒナちゃん。助けてくれたのにあんたなんて呼び方は失礼だよ~」

「ああ、いや……別にそれはいいですけど」



ナイは寝間着姿に着替えたヒナとモモと同じ机に座り、彼女達が用意してくれた夜食を味わう。ちなみに食堂で出している料理は全てテンが作り出した料理であり、彼女は剣だけではなく、料理の腕前も超一流だという。


この宿屋は宿泊する客は少ないが、料理を目当てに訪れる人間は多く、そのお陰で経営が成り立っているらしい。しかし、酒場と違って酒の種類が足りない事に文句を言う客も多い。



「うちの店も酒場に改装すればもっと人が増えて売り上げも増えると思うだけど……女将さんは絶対にそんな事をしないからね」

「絶対に?」

「この宿屋の前の主人、実は女将さんがまだ子供の頃から面倒を見ていてね。前の主人が辞めた後、ここで働かせてあげたそうなのよ。それでその人は子供も居なかったから、結局は女将さんが受け継ぐ事になって……」

「この店、女将さんにとっては大切な思い出がある場所だから、絶対に改装なんかしないって言ってたよ。もう100年以上も続いている由緒正しい宿屋なんだって!!」

「ああ、だから……」



二人の話を聞いてナイは白猫亭がどうして一見すると廃屋のように見えた理由が分かり、どうやら主人であるテンの意向で宿屋は改装を行わず、ボロボロな見た目のままだという。


従業員であるヒナの意見としては建物を酒場に改築すればもっと売り上げも伸びるのだろうが、それをテンは許さず、あくまでもここは宿屋として経営していくつもりらしい。



「ナイ君、だったよね?さっきは本当にありがとう、あのお客さん。ずっとお尻ばっかり触って来ようとするから……」

「い、いや……ああいう人は多いんですか?」

「うちの客の半分ぐらいは料理じゃなくて、うちらを狙ってやってくるからね。でも、ここで暮らしている人間ならテンさんの事を知らないわけはないからあんな馬鹿な真似は仕出かさないんだけどね。時々、外からやってくる奴等が馬鹿をやらかすのよ」

「なるほど、大変ですね」

「本当に大変なのよ。まあ、別にあの程度の客ぐらいなら助けてもらわなくてもなんとか出来たんだけどね。こう見えても私達、テンさんに鍛えられているから強いのよ」

「私は戦うのは苦手だけど、治すのは得意だよ。もしも怪我したら教えてね、すぐに治してあげるから~」

「え?回復魔法が使えるんですか?」



ナイはモモの話に驚き、基本的にこの世界で回復魔法を扱える陽光教会の関係者か、治癒魔導士ぐらいしか存在しない。回復魔法を扱うには特別な儀式を受ける必要があり、その儀式は一般人では普通は受けられない。


回復魔法はナイも覚えているが、それは彼が陽光教会の保護下にあったからであり、儀式を受けて回復魔法を覚えた。だが、モモの場合は回復魔法とは違う方法で人の怪我を治せるという。

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