第168話 ナイに適した職業

(これまでの仕事の中で一番稼げたのは魔物退治だったな……魔物に困っている人を助けて、ついでに魔物を倒した時に回収した素材を売る。これだけで結構稼げたな……)



ナイはこれまでの旅の道中で魔物に困っている人間と何度か遭遇し、その人達を助けるために力を貸した事が何度かあった。但し、外見が子供にしか見えないナイに対して大抵の人間はそう簡単には信用しない。


これまでの旅路でナイが助けてきた人々は彼が魔物を倒してきた事を確認したら大半の人間はお礼を渡してくれた。しかし、中には自分達が依頼したわけじゃないのだから、勝手に魔物を倒したナイに報酬を支払う必要はないと言い張る人間もいた。



(やっぱり、冒険者みたいな職業の人間じゃないと魔物退治をすると言っても簡単には信用してくれないよな。冒険者……か、年齢制限の規定がなければな)



世間一般では魔物退治の専門家であると思われる冒険者の職業はナイも務めようかと考えた事はある。子供の頃はゴマンが村を出て冒険者になりたいという話は何度も聞かされており、前々から興味はあった。


しかし、残念な事に現在では未成年者は冒険者になる事は認められず、最低でも15才を迎えた人間しか冒険者の登録試験を受ける資格は与えられない。つまり、ナイの場合は冒険者になりたくともあと1年は待たなければならない。



(流石に1年も過ごせる程の金はないし、冒険者以外に稼げる方法を探さないと……力仕事の関連なら他に良い稼ぎ方はあるかな?)



剛力を習得しているナイは力仕事の関連ならば自身はあるが、やはりこちらのほうも年齢の問題もあり、未成年者のナイはそう簡単には仕事が付けない。しかも彼の場合は保護者もいないため、仕事を見つけるのは苦労しそうだった。



(無難に外に出て魔物を倒して素材を売り払うしかないのかな……でも、王都には優秀な冒険者がいっぱいいるそうだし、それにちゃんとした通行証も買わないと出入りするだけでお金もかかるしな)



危険ではあるが王都の外に出向いて魔物を倒し、素材を回収して売り捌くという方法もある。だが、王都には数多くの冒険者が存在するため、彼等が倒して得た魔物の素材が出回っている。


そもそも魔物を倒して素材を回収する方法は冒険者からすれば商売敵となり、実際にナイは過去に魔物退治をした時、討伐依頼を受けた冒険者の目当ての魔物を先に倒してしまった事があった。この時はナイが倒した魔物の素材を分ける事で事なきを得たが、冒険者側からすれば仕事の邪魔をされた事に等しい。



(無暗に魔物を倒すとまた冒険者の仕事を邪魔する事になるかもしれないし……どうすればいいのかな)



今日の宿代は無料だが、明日からもこの宿屋に泊まるとなれば宿代を支払わなければならない。今のナイの手持ちだとビャクの餌代を考慮しても数日も過ごせば宿に泊まる事も出来なくなる。


金が尽きる前に仕事を探し出す必要はあるが、ナイは自分がどんな職業に就けばいいのか分からず、困り果てているとここである事を思い出す。




――時は少し遡り、ナイがヒイロとミイナの誤解を解いて一緒に盗賊を拘束した時、彼女達が気になる会話をしていた事を思い出す。



『ヒイロ、こいつら賞金首?』

『ええっと……いいえ、手配書にはありませんね。ただの小悪党のようです』

『そう、それは残念……賞金首なら特別手当も出たのに』



盗賊達を拘束する際に二人は羊皮紙の束を取り出し、盗賊達の顔を確認していた事をナイは思い出す。あの時の二人は捕まえていた盗賊に賞金が掛けられていないのか調べていたのだ。




賞金首を捕まえて警備兵に引き渡せば賞金が支払われる。そして賞金首を捕まえた者ならば誰であろうと関係なく、賞金を受け取れる権利はあるという話をナイは前に聞いた事がある。


高額の賞金首の犯罪者を捕まえる事が出来れば仕事を見つけずとも大金を手に入れられるかもしれない。だが、賞金首を見つけると言っても簡単な話ではないし、そもそもナイの手元には賞金首の手配書すらない。



(賞金首か……新しい仕事が見つかるまで、探してみるのもありかな)



しかし、このまま何もせずに考えるよりは行動する方がマシだと思ったナイは起き上がり、まずは手配書を手に入れる方法を考える。手っ取り早いのは現地の人間の聞く事であり、ナイは部屋を出て食堂へと向かう――





――白猫亭の食堂は酒場のように賑わっており、建物の外見はボロボロではあるが、意外と客は多かった。特に男性客が半分以上も占めており、彼等は酒を片手に楽しそうに談笑していた。



「やっぱり、ここの料理は最高だな!!」

「ああ、安いし、早く出てくるし、味も美味い!!文句なしだぜ!!」

「酒の種類がもっとあれば酒場としてもやっていけるんじゃないのかな?なんてな、がはははっ!!」



どうやら客達の殆どはこの宿に泊まっている人間ではなく、食事目当てで訪れている客らしい。食堂を見渡してナイは一つだけ空いている席を見つけ、そこに座ってまずは情報を集める前に腹ごなしする事にした。

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