第167話 宿屋「白猫亭」

「――あれ、おかしいな。道を間違えたのかな?廃屋しかないんだけど……」

「クゥ〜ンッ?」



ナイはミイナの指示された通りに宿屋が存在する場所に向かうと、そこには廃屋のようにボロボロの建物が存在した。最初は道を間違えたかと思ったが、若干傾いている宿屋の看板には「白猫亭」と記されていた。


王都の宿屋というぐらいなのだからどんな豪勢な場所だろうと期待していただけにナイは実際の白猫亭を見て唖然とするが、ため息を吐く。



「多分、ここみたいだ……とりあえず、中に入ってみようか」

「ウォンッ……!?」



立ち止まっていても仕方がないのでナイは中に入ろうとした時、ここでビャクが何かに気付いたように彼の服に咥えると、引き寄せる。



「ガウッ!!」

「うわっ!?」



急に引き寄せられたナイは驚いた声を上げるが、その直後に宿屋の扉が勢いよく開け放たれ、顔面が血塗れの男が街道に飛び出してきた。何があったのか男は怯え切った表情を浮かべ、逃げ出す。



「ひいいっ!?ゆ、許してくれぇっ!!」

「二度と来るんじゃないよ!!次に街で見かけたらぶっ殺してやるからね!!」



男が逃げ出した後、すぐに建物の中から怒声が響き、現れたのは身長が2メートル近くは存在する筋骨隆々の女性が現れる。最初はナイは巨人族ではないのかと思う程に体格も大きく、彼女は宿屋の前に立っているナイとビャクを見て眉をしかめる。



「ん?何だい、あんた等……うちの客かい?」

「え、えっと……あの、王国騎士見習いのミイナさんからここを紹介されて」

「ミイナが?あんた、あいつの友達かい?……とりあえず、中に入りな」



ナイは宿から現れた赤髪の女性に対して猫の髪飾りを渡すと、それを受け取った彼女はミイナの物である事を確かめ、扉を開いて中に入る様に促す。


建物の外観はボロボロだってので本当に営業しているのかと不安を思ったナイだが、内装の方は意外と綺麗で清潔感が保たれていた。この宿屋の主人と思われる女性は猫の髪飾りを片手にナイから事情を聞く。



「それで、あんたはミイナの何なんだい?まさか恋人じゃないだろうね」

「いえ、少し前に知り合ったばかりです」

「知り合ったばかりの相手にあいつがこれを寄越したのかい?」

「色々とありまして……」



これまでの経緯をナイは軽く話すと、女主人は納得したように頷き、彼女はため息を吐きながら猫の髪飾りを見つめる。



「またあいつら、人様に迷惑をかけたのかい……たくっ、仕方ないね。そういう事なら今日の宿代は無料にしてやるよ。あんたも苦労したんだね」

「え、いいんですか?」

「但し、飯代は別だよ。部屋は貸してやるけど、うちは食事代と宿代は別だからね。ちなみに食事の時間も決まっているから気を付けるんだよ」

「あ、はい……あの、ビャクはどうしたらいいんですか?」

「うちの裏に厩舎があるからそこに連れて行きな。餌を食べさせたいのなら後払いで餌代も支払ってもらうからね」

「分かりました」

「ほら、あんたの部屋は102号室だよ」



ナイは部屋の鍵を投げつけられ、慌ててそれを受け取ると女主人は食堂の方へ向かおうとした。だが、ここで思い出したように告げる。



「そういえば名乗っていなかったね。私の名前はテン、ミイナの奴は子供の頃から私が面倒を見てるんだ。まあ、妹みたいなもんだね」

「妹……」

「おい、今なにを考えたんだい?娘の間違いじゃないかと思ってないだろうね?」

「い、いや……別にそんな事は……」



テンと名乗る女主人の外見とミイナの事を思い出したナイは親子ぐらいの年の差があってもおかしくはないかと思ったが、それを察したミイナは額に青筋を浮かべて説明した。



「言っておくが私はこう見えてもまだ20代なんだよ!!あんなデカいガキがいるはずないだろ!!」

「す、すいません……」

「たくっ、次からは気を付けな!!そうそう、それと外に出かける時は武器を持っていくんだよ。最近ではここら辺で人攫いが起きているそうだからね。特にあんたのような若いのは気を付けるんだよ」

「あ、はい……」



人攫いという言葉にナイは先ほどもヒイロとミイナがそのような事を言っていた事を思い出し、どうやらこの近辺に住んでいる人間も人攫いが多発している事を知っているらしい。


ナイを捕まえようとした盗賊達が人攫いの噂の元凶なのかは知らないが、とりあえずはナイはビャクを厩舎まで移動させ、自分も部屋の中で休む事にした――






――紆余曲折はあったが、無事に王都の宿屋を確保したナイはこれからの事を考える。ここまでの旅路で路銀も大分使い果たし、今後は節約する必要もあった。王都へナイが訪れた目的は仕事を探すためでもあり、ビャクを養うためにもまずは金を稼ぐ必要があった。



「さてと、これからどんな仕事に就けばいいかな……」



この半年の間、ナイは色々な街をめぐって見聞を広め、自分に向いている職業を探す。旅の間に色々と仕事も行った事もあるが、やはりナイの力を行かせるとしたら魔物を狩る事である。

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