第169話 食堂での騒動
「えっと……どれが美味しいのかな」
「お?なんだ坊主、ここへ来るのは初めてか?」
「あ、はい……」
ナイはメニューを見てどれを食べるか迷っていると、隣に座っている男性客から声を掛けられる。相当に酒に酔っているらしく、彼は馴れ馴れしくナイの背中を叩く。
「がはははっ!!ここの店の料理はどれも絶品だぞ、何を頼んでも美味いからな!!」
「そ、そうなんですか……」
「ここの料理は女主人が調理しているんだが、もう会ったか?あの人を怒らせるんじゃないぞ、ああ見えても実は昔は……」
「もう止めてください!!」
男性客が言葉を言い終える前に店の中で女性の声が響き、何事かとナイは振り返ると、そこには茶髪に眼鏡を掛けた少女と、その後ろで震える桃色の髪の少女が立っていた。
二人ともこの店の従業員らしく、給仕の格好をしていた。年齢は二人ともかなり若く、器量も整っていた。特に桃色の髪の少女の方は身体の発育が良く、一方で茶髪の少女の方は逆に無駄な肉がない体つきだった。
「これ以上にうちのモモに手を出したら許しませんよ!!」
「ひ、ヒナちゃん……」
「へへへっ……おいおい、俺はそのお嬢ちゃんにちょっと触れただけだぜ?事故だよ、事故!!」
「よくもそんな事……事故でお尻を触ったというんですか!?」
モモと呼ばれた桃色の髪の少女は涙目でお尻を抑えており、どうやら質の悪い男性客がモモのお尻を触ったらしい。それを見かねたヒナという名前の従業員が注意すると、そんな彼女に酔っ払った男性客は不満そうに怒鳴りつける。
「何だ!?ここ従業員は客への態度がなってないな!!俺を誰だと思ってやがる、俺は銀級冒険者だぞ!!」
「はっ、冒険者だからって偉そうにしないでくれる?それにあんた、他所の街から来た冒険者でしょ?王都の冒険者ならあんたみたいな下品な奴が銀級まで昇格できるはずがないもの」
自分が冒険者と言い張る男性に対してヒナという名前の従業員は怖気もせずに言い返し、逆に小馬鹿にした態度を取る。その態度が気に障ったのか男性客は怒りを抱き、酒瓶を片手に少女を凄む。
「このガキ……調子に乗りやがって!!」
「調子に乗ってるのはあんたの方でしょ?ていうか、息が臭いのよ!!顔を近づけないでくれる!?」
「だ、駄目だよ!!ヒナちゃん、私は平気だから落ち着いて~!!」
強面の男性客を相手にヒナは一歩も引かず、腕を組んで正面から睨みつけるとあまりの迫力に男性客の方がたじろぐ。そんな彼女を落ち着かせようとモモは後ろから抱き着くが、遂に我慢の限界を迎えたのか男性客は空の酒瓶を握りしめる。
「このガキぃ……!!」
「何よ、それで殴るつもり?いいわよ、相手してあげましょうか?女相手にそんな物を取り出すなんて本当に見下げ果てた男ね!!」
「っ……!!」
「ヒナちゃん!?危ない!!」
ヒナの言葉を聞いて堪忍袋の緒が切れたのか男は酒瓶を振りかざし、そのまま彼女に殴りかけようとした。それを見たヒナは本当に殴り掛かるつもりかと驚き、それをモモは助けようと彼女の身体を引き寄せようとした時、男の腕が止まる。
「うおっ!?」
「おじさん、そこまでにしておきなよ」
「えっ!?」
「……貴方は?」
男が酒瓶をヒナに叩きつける前に何時の間にか彼の背後に移動していたナイは酒瓶を掴むと、男は信じられない力で握りしめられた酒瓶を振りほどけず、慌てて振り返る。
自分が叩きつけようとした酒瓶を握っている相手が
「何だ、てめえっ!?邪魔をするなら……ぐうっ!?」
「邪魔をするなら……何?」
ナイから酒瓶を奪い返そうとした男だったが、どういう事かいくら力を込めてもナイからが酒瓶を引き剥がせない。必死に男は両手を使って酒瓶を掴み、引きよせようとしてもナイは片手で酒瓶を握りしめて手放さない。
(ば、馬鹿な……俺はレベル30だぞ!?なのに、こんなガキに……!?)
冒険者である男は自分がいくら力を込めて片手で酒瓶を握りしめるナイに力負けしている事が信じられず、必死に引き抜こうとする。だが、そんな男に対してナイは逆に酒瓶を引き寄せると、男は勢いあまって倒れ込む。
「うぎゃっ!?」
「あっ……大丈夫ですか?でも、お酒の飲み過ぎでふらふらじゃないですか。もう今日は帰った方がいいですよ」
「こ、このっ……!!」
ナイは倒れた男を心配する様に声を掛けると、そんな彼の態度に男は挑発だと判断し、怒りのあまりに男はナイの胸元を掴み、至近距離で怒鳴りつける。
「てめえ、ぶっ殺されたいのか!?」
「ちょっと、止めなさいよ!!」
「喧嘩は駄目だよ~!!」
男がナイを掴みかかったのを見てヒナとモモは慌てて止めようとしたが、そんな男に対してナイはため息を吐きながら腕を掴むと、すこしばかり力を込めて握りしめた。
それだけの行為で男は悲鳴を上げ、ナイを掴んでいた腕を離す。彼の腕にはナイが握りしめた手の痣が残っており、まるで万力の如く強力な握力を誇るナイに男は焦りを抱く。
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