第164話 戦斧を操る少女

「おおっ……私の攻撃、受け止められた人は久しぶりかも」

「くっ……いきなり何をするんですか!!」

「それはこっちの台詞……私の同僚を傷つけた以上、見逃す事は出来ない」

「同僚……?」



ナイは先ほど倒した少女に視線を向け、言われてみれば少女が身に付けている衣服と目の前の少女が来ている衣服は同じ物だった。但し、違いがあるとすれば先ほどの少女と比べて新たに現れた少女の方が背がかなり低く、その反面に胸はかなり大きかった。




――戦斧を構える少女の外見は若干青みがかった銀髪をサイドテールに纏めており、身長は140センチほどしかない。顔立ちの方は可愛く整っており、藍色の瞳だった。小柄ではあるが胸元はかなり大きく、制服がはだける程に大きな胸が目立つ。


少女の手には戦斧が握りしめられ、かなり柄が長く、2メートル近くは存在した。しかも先ほどの攻防でかなり衝撃を受けたはずだが刃の方は刃毀れひとつ起こしておらず、強度の方も旋斧にも勝るとも劣らない。




(この子……可愛い顔をしてるけど、とんでもない力を持っている)



上空から現れたという事は少女は建物を越えて飛び降りた事を意味しており、身体能力の方もかなり高い。年齢はナイとそれほど変わらないと思われるが、一方で少女の方もナイを観察する。



「……一応聞くけど、男の子?」

「え?そうですけど……」

「そう、なら遠慮はしない……本気で行かせてもらう」

「っ!?」



ナイの返答を聞いた少女は戦斧を軽々と振り回し、その少女の姿を見てナイは本能的に危険を感じとる。少女は戦斧を構えると、ナイへ向けて振り下ろす。



「てりゃあっ」

「うわぁっ!?」



距離があったにも関わらずに少女が繰り出した戦斧はナイの頭上に目掛けて振り下ろされ、咄嗟にナイは攻撃を躱す事に成功したが、戦斧が地面に衝突した際にめり込む。


単純な膂力は剛力を発動させたナイにも劣らず、地面にめり込んだ戦斧を少女は片腕で引き抜く。その光景を見てナイは焦りを抱き、外見は可愛らしいが信じられない膂力を誇る少女に焦りを抱く。



(何だ、この子の力……まさか、剛力を覚えているのか!?)



自分と同じように少女が剛力の使い手なのかと思ったナイは旋斧を構えて距離を取るが、この時にナイはある事に気付く。それは先ほどの攻防の際、少女の戦斧の柄の長さが変化している様に感じられた。



(あれ、どうなってるんだ……まさか!?)



ナイは自分の思いついた考えが正しいのかを試すため、彼は後ろに跳んで距離を取る。一方でビャクの方は盗賊を抑えつけているために手が出せず、心配そうな声を上げた。



「クゥ〜ンッ……」

「ビャク、大丈夫だよ。俺は平気だからそいつらが逃げない様にしてて……」

「……私の事、舐めてる?」



ビャクを気遣うナイを見て少女は自分の事を侮っているのかと少し不機嫌そうな表情を浮かべるが、決してナイは少女を舐めているわけではない。むしろ追い込まれていると自覚していた。


しかし、ここで退くわけにもいかず、ナイは改めて少女の手にする戦斧の様子を伺う。ナイと少女の距離は4、5メートルは離れており、この間合いならば少女が戦斧を繰り出しても当たる事はない。



「これで終わらせる……てやぁっ」

「くぅっ!?」

「ウォンッ!?」



少女は間合いが離れているにも関わらず、戦斧を横に振り払う。その瞬間、戦斧の柄が伸びるとナイへ向けて放たれ、その攻撃に対してナイは予測していたかのように旋斧で受け止める。




――先ほどの戦闘の時からナイが感じていた違和感、それは少女の戦斧の間合いであり、先の攻撃でもナイは少女の戦斧の間合いの範囲外にいたのに攻撃を受けそうになった。この事からナイは少女の戦斧に秘密があると知り、その予感は的中した。





どうやら少女の手にしている斧は原理は不明だが、柄の部分の長さを自由に調整できるらしく、少女はそれを生かして間合いを変化させて攻撃を行う。ナイがどれだけ離れていても絵を伸ばして攻撃すれば避けるのは難しい。しかも現在の場所は四方を建物に取り囲まれた空き地であり、逃げる範囲が限られている。



(やっぱり、重い……こんなのまともに受けたら無事じゃすまない!!)



旋斧で戦斧の攻撃を受けたナイはどうにか弾き返すが、間合いが違いすぎてこれ以上に戦闘を続けたらナイの方が不利だった。少女の方もナイが立て続けに自分の攻撃を受ける事からじれったさを覚えたのか、彼女は戦斧を何度も放つ。



「ていっ、やあっ、とりゃあっ」

「くっ、このっ、うわっ!?」



気の抜ける掛け声とは裏腹に少女の攻撃は重く、一撃を受ける度にナイは後退り、壁際へと追い込まれていく。このままでは持ち堪えられないと思ったナイは右腕の盾に視線を向け、反撃を仕掛ける事にした。

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