第163話 旋斧VS炎の魔剣

「くっ!?」

「行きますよ、はぁあああっ!!」

「あちぃっ!?」

「ひいいっ!?」



少女が気合を込めるように剣を握りしめると、刀身に纏う炎が一段と大きくなり、腰を抜かしていた盗賊達もその剣の熱気に当てられて悲鳴を漏らす。


不思議な事に少女は炎の放つ熱気の影響を受けていないのか汗一つ流す様子はなく、ナイに向けて駆け出すと彼女は剣を振り下ろす。



「やああああっ!!」

「くっ……!?」

「ぎゃああっ!?」

「あぢぃいいっ!?」



旋斧と剣が触れた瞬間に火の粉が飛び散り、空き地内に更に熱気が襲い掛かる。ナイはどうにか旋斧で受ける事に成功したが、あまりの少女の剣の熱気に汗を流す。



「ぐうっ……!?」

「さあ、降参しなさい!!そうすれば命までは取りません!!」

「いい加減に……話を聞けぇっ!!」

「きゃっ!?」



しかし、鍔迫り合いの状態からナイ弾き返すと、その彼の膂力に少女は驚き、ナイの方は旋斧に視線を向ける。普通の剣ならば溶けてもおかしくはないが、ナイの旋斧も普通の武器ではなく、魔法金属で構成されているので溶解は免れた様子だった。


少女の剣を見てナイはこれ以上に攻撃を受けるのはまずいと思い、攻撃を防ぐ事が出来てもナイの方が炎の熱気でやられてしまう。そう考えたナイは少女を止める方法を考え、ある事を思いつく。



(よし、やってみるか……)



ナイは旋斧を上段に構えると、その様子を見て少女は警戒したように魔剣「烈火」を構える。だが、ナイは距離が開いているにも関わらずに旋斧を振りかざし、地面に叩き込む。



(上手く行け!!)



この時にナイは剛力を発動させて腕力を強化すると、強烈な一撃を地面に叩き込む。その結果、刃は地面にめり込み、周囲に亀裂が走る。この衝撃で少女は体勢を崩し、更に刃が叩き込まれた箇所から土煙が舞い上がる。



「なっ!?何という馬鹿力……ど、何処へ消えたのですか!?」



少女はナイの驚くべき腕力に驚愕し、しかも土煙に紛れてナイの姿が消えてしまった。慌てて彼女は軽快して剣を構えるが、やがて土煙の中からナイが飛び出す。



「うおおおっ!?」

「えっ!?」



わざわざ土煙に隠れたというのに自ら姿を現し、しかも真正面から迫ってきたナイに少女は動揺する。だが、すぐに彼女は烈火を構えると、ナイに対して刃を向ける。


ナイは駆け出しながらも右腕に装着した盾を構えると、それを前に突き出して少女に放つ。その結果、少女の持つ剣とナイの盾が衝突し、衝撃波が発生して少女の身体を吹き飛ばす。



「きゃあああっ!?」

「……よしっ!!」



少女を吹き飛ばす事に成功したナイは声を上げ、炎を纏う刃に触れたにも関わらずにナイの所持している盾は無傷だった。それどころか魔剣の炎を振り払い、無効化する。




――かつてナイはゴブリンメイジとの戦闘でゴマンの盾が魔法を弾き返した事を思い出し、この盾は魔法攻撃に対しても有効である事は既に知っていた。少女の持っていた魔剣の炎も吹き飛ばせると信じ、見事に実現させた。




衝撃波によって吹き飛ばされた少女は地面に倒れ込み、気絶したのか動かない。その様子を見てナイは安堵すると、盗賊達は怯えた声を上げる。



「ひ、ひいいっ!?」

「な、何だ今のは……い、いや、それよりも助けてくれぇっ!!」

「人の事を嵌めようとしておいて……」

「ウォンッ!!」

「「あだぁっ!?」」



ナイの言葉に同意するように下がっていたビャクは倒れている二人の盗賊の元へ向かい、盗賊達を前脚で抑え込む。腰を抜かした状態で身体を抑えられた盗賊達は抵抗する事も出来ず、呻き声を上げる事しか出来ない。



「さてと……あの人を助けないと」



先ほど吹き飛ばした少女の事を心配したナイは旋斧を背中に戻して倒れた少女の元へ向かおうとした。大怪我はさせていないと思うが、それでも互角を解くためにも彼女を起こす必要があった。


だが、少女に近付こうとした瞬間、ナイの身に付けている「気配感知」の技能が勝手に発動し、上空から何かが接近している事をナイは感じとる。驚いてナイは振り返ると、そこには旋斧のように特大の大きさの戦斧を構えた少女の姿が存在した。



「ていっ」

「くぅっ!?」

「ウォンッ!?」



ナイは咄嗟に背中に戻そうとした旋斧を構えると、気の抜けるような掛け声とは裏腹に少女は強烈な一撃を繰り出し、金属音が鳴り響く。ナイの旋斧と少女の戦斧が衝突し、やがて少女の方は着地する。



(何だ、この重さ……!?)



攻撃を受けた際にナイは腕が痺れ、上空から唐突に現れた少女の一撃は信じられない程に重く、一方で少女の方も自分の攻撃を受け止めたナイに少しだけ驚いた様子だった。

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