第162話 勘違い

「ひいっ……た、頼む!!助けてくれ、命だけは……」

「駄目だよ。うちの子に手を出しておいてこのまま帰すと思ってるの?」

「グルルルッ……!!」

「ひいいっ!?」



ナイの言葉に腕を負傷した盗賊二人は身体を振るえさせ、腰が抜けたのか立ち上がる事さえ出来ない。そんな二人組に対してナイは腕の怪我に視線を向け、仕方がないので怪我だけは先に治してやろうと近づく。



「……腕を出して」

「や、止めろっ!?頼む、命だけは……」

「どうか許してくれぇっ!!」

「うるさいな……何もしないよ、回復魔法で治すだけだって」

「クゥ~ンッ……」



情けなく震え上がる盗賊二人に対してナイは呆れた表情を浮かべ、無理やりにでも怪我をした腕を掴んで治そうかとした時、ここで路地裏の方から何者かが駆けつけてくる足音が鳴り響く。



「こちらから悲鳴が聞こえましたが、何事ですか!?事件ですか!?」

「えっ?」

「ワフッ?」



足音を耳にしたナイとビャクは振り返ると、そこには赤色の髪の毛を少女が飛び出し、一般人ではないのか少女の格好は普通ではなかった。



――少女の外見は年齢は14、15才ぐらいだと思われ、まるで炎を想像させる赤色の髪の毛と瞳が特徴的だった。顔立ちの方も端正で長い髪の毛を三つ編みにして後ろで纏めており、体型の方は一切の無駄な肉がなく、しなやかな下半身をしていた。



少女の格好はこの国の女性の騎士だけが身に付ける事を許される制服を着ており、胸元の部分には赤色の竜が刻まれていた。少女の腰には美しい装飾が施された長剣を装備しており、腕には赤色に光り輝く宝石のブレスレットを身に付けている。


一見するだけで一般人には見えない少女の登場にナイも盗賊達も驚くが、その一方で少女の方は目の前の状況を見て目を見開き、倒れている男二人と怪我をしている二人の男に片腕を伸ばすナイを見て叫ぶ。



「なるほど!!貴女がここ最近、この近辺で人攫いを行っている犯罪者ですね!!」

「……えっ!?」

「ウォンッ!?」



少女はナイの方を指差しながら怒鳴りつけ、目つきを鋭くさせる。その一方でナイは少女が何を言っているのかと思ったが、どうやら彼女はナイが倒れている盗賊二人を見てナイが彼等を痛めつけているように見えたのだろう。



「犯罪者は許しません、覚悟して下さい!!この王都を守る騎士として貴方を断罪します!!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!犯罪者はこいつらの方で……」

「ふふん、そんな演技には引っかかりません!!その手に持っている凶器が証拠です!!」

「凶器って……あっ」



ナイは倒れている盗賊から刺剣を引き抜く際、刃に血がこびり付いた状態の刺剣を手にしている事を思い出し、確かに状況的にはナイが腰を抜かしている二人の盗賊を痛めつけているようにも見える。


すぐにナイは誤解である事を告げようとしたが、その前に腰を抜かしている盗賊達は少女を見て顔を見合わせ、すぐに笑みを浮かべて助けを求めた。



「そ、そうです!!俺達は急にこのガキ……いや、こいつに襲われたんです!!」

「そこに倒れている二人を殺したのもこいつなんです!!」

「なっ!?殺人までしていたのですか!?おのれ、許しませんよ!!」

「いや、死んでないって!!盗賊はこいつらの方で……うわっ!?」

「悪党の言葉など聞く耳持ちません!!」



盗賊の言葉を聞いた少女は剣を引き抜くと、少女の剣は赤色の刃である事が発覚し、柄の部分には赤色の宝石が嵌め込まれていた。少女が身に付けているブレスレットと剣の柄に嵌め込まれている宝石を見て、すぐにナイはその正体がただの宝石ではない事に気付く。



(あれは……火属性の魔石!?という事はこの人、魔法を使えるのか!?)



少女が身に付けている宝石の正体が火属性の魔石だと見抜いたナイは焦りを抱き、ともかく彼女の誤解を解こうとした。だが、少女の方は剣を構えるとナイへ向けて跳躍し、上空から刃を振り下ろす。



「悪党に慈悲はありません!!天誅!!」

「くそっ、ビャクは下がって!!」

「ウォンッ!?」



ナイは背中の旋斧に手を伸ばすと、少女が振り下ろした剣の刃を受け止める。自分の攻撃を受けたナイに対して少女は驚くが、すぐに彼女は地上へ着地すると、距離を取る。



「変わった武器をお持ちのようですね!!しかし、この魔剣「烈火」の攻撃を受け切れますか!?」

「魔剣……!?」

「喰らいなさい、火炎剣!!」



少女はナイに向けて刃を構えると、彼女は柄に嵌め込まれた宝石に触れた状態で呪文を唱えると、刃に炎が纏う。それを見たナイは以前にアルから聞いた話を思い出す。


かつてアルは魔法金属と呼ばれる特殊な金属で構成された武器が存在する事を話しており、恐らくは少女が手にしている武器も普通の金属ではなく、魔法金属と呼ばれる物で構成されているとナイは悟る。


並の武器ならば炎を纏う時点で刃が過熱し、溶解してもおかしくはない。しかし、少女が手にした剣は刃が溶解するどころか火力が徐々に強まっており、相対するだけでナイは熱気に襲われ、汗を流す。

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