第161話 盗賊

「盗賊、か……という事はさっきの人とグルだったわけか」

「グルルルッ……!!」

「へへへ、悪く思うなよ。白狼種の素材なんて滅多に手に入らないからな……」



ナイは現れた男達を見て背中の旋斧に手を伸ばし、ビャクは威嚇を行う。だが、盗賊と思われる男達は二人を見ても動じない。ビャクを見ても怯えもしない男達の態度にナイは疑問を抱く。


盗賊達が空き地に踏み込むと、ナイは旋斧を引き抜こうとした時、ここで盗賊の一人が腕輪を取り出す。それはナイが身に付けている腕輪と同じ物であり、それを見たナイは驚いた様にビャクに振り返る。



「ビャク!!離れろっ!!」

「ウォンッ!?」

「もう遅い!!!!」



男が腕輪を装着して叫んだ瞬間、ビャクの首元に装着された首輪が縮小化し、唐突に首元を締め付けられたビャクは呻き声を漏らしながら倒れ込む。



「ガァアッ……!?」

「ビャク!?くそっ、このっ……!!」

「無駄だ、そいつは魔獣用に設計された魔道具だ!!人間の力で壊せるかよ!!」



倒れ込んだビャクを見てナイは咄嗟に首輪を外そうとするが、いくら力を込めてもびくともせず、徐々に締め付けていく。首の骨が軋む音が鳴り響き、すぐにナイは腕輪を持っている男を睨みつける。


まさか魔獣の飼い主か兵士が所持しているはずの腕輪を盗賊が所持しているとは思わず、すぐに男を止めるためにナイは駆け出す。この時に腕輪を嵌めた男を守ろうと他の盗賊が立ちはだかる。



「おっと、お前の相手は俺達だ!!」

「魔獣の力も借りずに俺達に勝てると思ってるのか!?」

「退けっ!!」



ナイは立ちはだかる男達に迫ると、背中の旋斧に手を伸ばす。だが、相手が仮にも人間である事を思い出し、下手に旋斧を使用する殺しかねない。仕方なくナイは刺剣を取り出すと、盗賊達に目掛けて放つ。



「邪魔だ!!」

「ぐああっ!?」

「いでぇっ!?」

「な、おい、何をやってんだお前等!?」



立ちはだかる盗賊二人の腕に向けてナイは投擲の技能を発動させて刺剣を放つと、狙い通りに武器を手にしている腕に刺剣が突き刺さり、男達は悲鳴を上げて腕を抑える。この時に腕輪を装着した男は焦った声を上げるが、彼を押し退けて一番体格が大きい男が現れた。



「ちっ、何をしてやがる。ガキだと思って油断してるんじゃないぞ!!」

「あ、兄貴!!」

「退け、俺が相手だ小僧!!」



盗賊達の兄貴分である大男は現れると、背中に背負っていた手斧を引き抜く。それを見たナイは左腕に装着した腕鉄鋼に視線を向け、拳を振りかざす。



「このぉっ!!」

「馬鹿がっ!!」



ナイが拳を突き出すと、大男は手斧を振りかざし、刃を叩き込む。金属が割れる音が鳴り響き、盗賊達はナイの左腕が破壊されたと思った。


しかし、実際の所はナイが突き出した左拳は大男の放った手斧を砕き、空中に刃の破片が飛び散る。まさか自分の手斧の方が壊れるとは思わなかった男は唖然とするが、その大男の顎に向けてナイは今度は右拳を突き上げる。



「邪魔ぁっ!!」

「ぐふぅっ!?」

「あ、兄貴ぃっ!?」



顎を下から打ちぬかれた大男は空中に浮き上がり、そのまま地面に墜落する。その様子を見た残りの盗賊は逃げようとしたが、その男に対してナイは右腕に装着した盾を構えた。



「逃がすか!!」

「うわぁっ!?」



右腕に装着した盾の内側にはボーガンが設置されており、しかも装填されているのは只の矢ではなく、かつてアルが作り上げたミスリル製の刃であった。元々は槍の刃として利用されていたが、この半年の間にナイは改造を加える。


放たれた刃は逃げようとした盗賊の足元に放たれ、地面に突き刺さる。それを見た盗賊は焦って体勢を崩してしまい、倒れ込む。その隙にナイは男に近寄ると、彼が装着している腕輪を掴む。



「早くビャクの首輪を戻せ!!」

「ひいいっ!?は、はい……っ!!」

「ウォンッ!?」



男が叫んだ瞬間、ビャクの首元を締め付けていた首輪が元通りの大きさへと戻り、すぐにビャクは起き上がる。その様子を確認したナイは安堵するが、すぐに男に視線を向けて容赦なく顔面に拳を叩き込む。



「ふんっ!!」

「ぐへぇっ!?」



顔面を殴られた男は鼻血を流しながら白目を剥き、意識を失う。その間にナイは腕を刺剣で突き射された男達に視線を向けると、どちらも怯えた表情を浮かべていた。



「ひっ!?ゆ、許してくれ……」

「頼む、見逃してくれ……もうあんたを狙わないからよ!!」

「……信じられるか」



ナイは腰を抜かした盗賊二人組の元へ歩むと、まずは男達に突き刺さった刺剣を回収するために引き抜く。男達は腕から刺剣を引き抜かれる際に絶叫し、悲鳴が路地裏に響く。


男達に突き刺さった刺剣を回収したナイはこびり付いた血に視線を向け、眉をしかめる。汚れてしまったので後で洗う必要があると思った時、腕から血を流す男達は必死に傷跡を抑えながら命乞いを行う。

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