第160話 王都

思いもよらぬ展開でナイは手持ちの路銀が大分減ってしまったが、それでも王都に入る事に成功する。城門を通って最初にナイが抱いた感想は、建物の大きさと人の多さだった。



「うわっ、凄い……こんなに人が多いんだ」

「クゥ〜ンッ……」



街道には大勢の人間が行き来しており、その中には人間以外の種族も多数存在した。巨人族でも入れるように設計されたとしか思えない大きさの建物も多く、他にもちらほらとだが魔獣の姿も見える。


どうやらナイ以外にも魔獣を飼育する人間も多く、馬の代わりに魔獣に引かせている馬車も存在した。街道には兵士も巡回をしており、王都となると一般兵でも良い装備をしていた。



「人が多すぎて人酔いしそうだな……それはともかく、今夜の宿を探さないとな」

「ウォンッ!!」



ナイはビャクを連れて街の中を歩き、思っていたよりもビャクを連れていても人目を引かない。街を歩く人の中にはビャクを見て驚く者もいたが、それほど魔獣は珍しくないのか大抵の人間は特に反応を示さない。



(意外と魔獣も見かけるな……そういえば魔物が増加したせいで護衛代わりに魔獣を捕獲して飼育する人も増えたんだっけ)



現在は世界中で魔物が増殖化している中、魔獣を捕獲して餌付けを行い、護衛として連れ歩く人間も増えてきた。これも魔物が増えた影響といえるが、そのお陰でビャクのような白狼種でも街を歩いていても恐れられる事はない。



「おい、兄ちゃん!!その狼格好いいな、自分で捕まえて手懐けたのか?」

「え?」

「へえ、そいつは凄いな。兄ちゃん、まだ若そうに見えるが余程優秀な魔物使いのようだな」

「クゥ〜ンッ?」



道を歩いている途中でナイは馬車に乗った男性に呼び止められ、その男性はビャクを興味深そうに見つめ、白狼種と見破る。



「おいおい、こいつは驚いたな。そいつは白狼種じゃないか、こんな場所で見かけるとは思いもしなかったぜ」

「そうですか……じゃあ、先を急ぐので」

「待ってくれ!!その白狼種、売る気はないか?」

「ウォンッ!?」



男性は馬車を止めるとナイにビャクを売るつもりはないかと商談を申し込むが、そんな申し出にナイが引き受けるはずがなく、きっぱりと断って先を急ごうとする。



「いいえ、この子は売るつもりはありません。急いでいるので失礼します」

「まあ、待てって!!俺は他所の街から来た商人だが、最近は護衛を雇う金も困っていてな。他の奴等の様に魔獣を飼おうかと思ってたんだ。だから頼む、そいつを売ってくれないか?」

「護衛を雇うお金もないならこの子の餌代も払えないと思いますよ」

「ワフッ……」



基本的に大抵の魔獣は高い戦闘力を誇る反面、馬などよりも餌代が高い場合が多い。特に白狼種のビャクは1日にかなり餌を食べるため、街などに宿泊する際は結構な量の餌を用意しなければならない。


旅をしている間はビャクは勝手に魔物を狩ってそれを食すので餌代は殆ど掛からないが、魔物がいないような市街地で飼う場合は毎日かなりの餌代を必要とする。ビャクの場合は1日に猪1頭分の食事を用意しなければ満足せず、あまりに腹を空かせると気が荒くなって暴れてしまう。



「それにこの子がいないと旅に困ります。だから売る事は出来ません」

「そうか、なら残念だな……そうだ、迷惑をかけた詫びとして良い宿を紹介してやろうか?」

「宿?」



商人はナイの言葉を聞いて残念そうな表情を浮かべるが、気を取り直したように彼に宿の場所を教える。商人の男は指差した方向は裏路地だった。



「そこを通ると、すぐに宿がある場所に辿り着ける。そこの宿は安くてしかも魔獣も泊めさせてくれる良い宿だからな、お勧めするぜ」

「そうなんですか……なら、行こうかビャク」

「ウォンッ?」



ナイは商人の言葉を聞いて路地裏の方へ移動し、この時にビャクは不思議そうに首を傾げる。一方で商人の男は去っていくナイに口元に笑みを浮かべ、馬車の中に隠れている人物に話す。



「おい、出番だ。白狼種の素材は高く売れるからな、絶対に逃がすなよ」

「へへ、了解……それにしてもあんなガキが白狼種を引き連れているとはな」

「絶対に逃がすなよ、あのガキめ……後悔させてやる」



商人の男は自分にビャクを売らなかったナイに対して手段を選ばず、彼に命じられた男は急いでその場を離れる。一方でナイの方は路地裏へと入り込み、ビャクと共に進んでいく――






――路地裏を突き進むと、ナイは建物に取り囲まれた空き地へと到着し、周囲を見渡すがナイが入ってきた場所以外に出入口は見当たらない。ビャクは警戒心を高めながら周囲を振り返り、ナイに警告する。



「ウォンッ!!」

「分かってる……やっぱり、罠だったか」



ナイは振り返ると、自分達が歩いてきた裏路地の方から口元を黒い布で覆い込み、更に頭には黒いパンダナを付けた男達が現れた。

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