王都編
第159話 14才
――村を旅立ってから数か月の月日が流れ、ビャクと共に旅だったナイは14才の誕生日を迎えた。この数か月の間にナイはビャクと共に様々な地へと訪れ、遂に王都へと辿り着く。
「へえ、あれが王都か……やっぱり、凄く大きいな」
「ウォンッ……」
14才になったナイは身長も伸びて筋肉も付き、その一方でビャクの方も大きくなっていた。少し前までは馬と同じぐらいの大きさだったが、現在では更に大きくなっている。
ビャクと共にナイは草原の丘の上にて遠目に見える王都を確認し、これまでに訪れたどんな街よりも高い城壁に覆われていた。国の要であるが故に防備も高いのは当然だが、最近は魔物の被害も多発しているせいか城壁の上には大勢の兵士の姿が見えた。
「王都か、どんな所だろう。少しわくわくするね」
「クゥ〜ンッ」
ナイはビャクの背中に乗って王都へ向かい、この時に王都の城門の前に行列が出来ている事を知る。王都へ入るには検問を受ける必要があり、その中には商団も多く混じっていた。
「許可証は持っているのか?何、持っていない!?ならば通行料として1人につき銅貨5枚だ!!許可証を発行するならば銀貨5枚だ!!」
「なっ!?また値上がりしたのか!?」
「払えなければ帰れ!!次の者、早く来い!!」
「くそ、分かったよ!!払う、払うから入れてくれ!!」
城門の方から聞こえてきた声を耳にしてナイは王都へ入るだけでも随分な金額を取られる事に驚く。ちなみに銅貨は日本円に換算すると1枚につき1000円程度であり、銀貨の場合は1枚につき1万円程度である。
この国の通貨は主に鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、ミスリル金貨の5つに分けられ、最後のミスリル金貨に関しては最も価値が高く、上流階級の人間しか持ち合わせていないとさえ言われている。ちなみに鉄貨よりも価値の低い通貨もあり、そちらは紙幣で取り使われている。
ナイは自分の手持ちを確認し、あまり余裕はないが通行料を通れるぐらいの金額はある事は確認した。王都へ辿り着いたら人稼ぎする必要があり、今度はどんな仕事に付こうかと考えていると、自分の番が訪れた。
「よし、次の者……って、なんだそいつは!?」
「えっ?」
「ウォンッ?」
兵士がナイとビャクの姿を見ると慌てふためき、その反応を見てナイは不思議に思うが兵士が驚いているのは馬よりも大きい狼のビャクである事に気付く。
「そ、そいつは魔獣ではないか!!貴様、魔獣を従えているのか!?」
「あ、はい……あれ、魔獣を連れてきちゃ駄目でしたか?」
「いや、ちゃんと飼育している魔獣ならば問題はないが……最近は魔物の被害が増加しているからな。王都へ魔獣を入れる場合は特別な許可証が必要になるぞ。持っているのか?」
「えっ……持ってませんけど」
検問の兵士によると魔物の被害が多発した事で人々は国側も人が飼育している魔獣の取り扱いには警戒しているらしく、人が暮らす場所に魔獣を受け入れる場合は常に注意しなければならない。
「魔獣を中に入れたいというのであれば必ず拘束具を装着し、夜間の場合は外へ出歩く事も許されんぞ。それと一部では魔獣の出入りを禁止する場所もある。それを踏まえた上で入れるのか?」
「クゥ〜ンッ……」
「そんなに厳しいのか……ごめんね、ビャク。少しだけ我慢してね」
魔獣を王都へ入れるには色々と制約があるらしく、ナイは仕方なくビャクに不自由をさせる事になるがその条件を引き受ける。兵士はすぐに魔獣用の首輪を用意させると、ナイへと手渡す。
「これは服従の首輪という魔道具だ。この首輪と腕輪はセットであり、この腕輪を装着して念じるだけで首輪を締め付ける機能がある。街にいる間はこれを必ず付けてもらうぞ」
「へえ、魔道具……」
「取り外したいときは街を出る時に兵士に相談しろ。言っておくが、この腕輪と首輪は力ずくでは剥がせないし、街中で取り外す事も許されていない。それを承知した上でも中に入るつもりか?」
「はい、わかりました。ビャク、ちょっとだけ我慢してね」
「ウォンッ……」
兵士の言葉にナイは承諾し、兵士に腕輪を装着されるとビャクの方も首輪を取り付けられる。ちなみにこの腕輪は兵士も常備しているらしく、もしも街中で騒ぎを起こせば腕輪を装着した兵士が真っ先に首輪を締め付けて魔獣を抑えつけるという。
「街を巡回する兵士もこれと同じ腕輪を持っている。だからもしも街で騒ぎを起こせばその魔獣の命はないと思え……では、通行料として銀貨5枚と銅貨5枚を支払って貰おうか」
「え、そんなにするんですか!?」
「当たり前だ!!お前達に身に付けた首輪と腕輪がどれほどの価値があると思っている!!言っておくが破損すれば更に弁償代を払ってもらうからな!!さあ、後がつかえている!!早く行け!!」
ナイは渋々と通行料を支払い、首輪を装着されたビャクと共に王都の中へと入る。仕方ないとはいえ、これでナイの手持ちは今日の宿代を支払えるかどうかの金額しか残っていなかった。
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