第152話 赤毛熊を倒した者
ナイとビャクが屋敷の裏庭から抜け出し、正門の方へ辿り着こうとした時には屋敷の使用人と護衛の人間も集まっていた。彼等は正門の前にて群がり、訪問者を注意する。
「な、何なんだ君は!?いきなりやってきてあんな馬鹿でかい声を出すなんて……」
「近所迷惑だろう、早く帰りたまえっ!!」
「無礼は承知の上だ!!どうか、会わせてくれ!!」
どうやら訪問者は既に屋敷の中に入り込んでいるらしく、使用人と屋敷の護衛の男達に囲まれていた。先の一件で屋敷の正門の扉は魔物に破壊されており、簡単に侵入を許してしまったらしい。
大勢の大人に囲まれているせいでナイは相手の姿を確認出来ないが、声の感じからして若い男性である事は間違いなく、相手もナイの気配に気づいたのか大人達を掻き分けて遂に姿を現す。
「ん?そこにいるのは白狼種か!?」
「ちょっと君、何を勝手に……うわっ!?」
「な、何だ!?この力は……!?」
大人達を押し退けて姿を現したのは14か15才ぐらいの黒髪の少年であり、随分と派手な鎧を着こんでいた。黄金の鎧を身に纏い、背中には大剣を背負っていた。少年は屋敷の中に白狼種がいる事に気付き、その傍にいるナイを見て首を傾げる。
「……そこの君、その白狼種は君が飼っているのか?」
「え?えっと……まあ、そうですね」
「ウォンッ」
ナイの言葉にビャクは彼の頭の上に顎を置き、後ろから抱きしめる。その姿を見て少年は驚いた表情を浮かべ、感心したように頷く。
「あの白狼種を手懐けるとは……将来は立派な魔物使いになれるだろう。まあ、それはともかく聞きたいことがあるのだが、この屋敷に赤毛熊を倒した人間がいると聞いたんだが、本当か?」
「ええ、まあ……嘘じゃないですね」
少年の言葉にナイは頷くと、少年は驚いた表情を浮かべ、すぐに気を引き締め為す様に屋敷を見上げる。
「なるほど、やはり本当の話だったのか……それで、その人は今も屋敷にいるのかい?」
「え?いや、それは……」
「おい、君!!いい加減にしないか、勝手に中に入ってくるなんて何を考えているんだ!!」
「どこの誰だか知らないが、さっさと出て行け!!ここを誰の屋敷だと思っている!?」
「……仕方ないな」
ここにきて屋敷の使用人と護衛が少年を追い出そうとしたが、彼等に対して少年は胸元に手を伸ばすと、ペンダントを取り出す。そのペンダントには家紋が刻まれており、彼はそれを見せつけると周囲の人間の態度が変わる。
「僕の父とここの屋敷の主人は昔からの付き合いだ。勝手に入った事は詫びるが、どうしても確認したいことがある」
「こ、この家紋は……!?」
「まさか、貴族様の!?」
少年がペンダントを取り出した瞬間に周囲の人間の態度が代わり、彼等は慌てて平伏する。その様子を見てナイはどういう事なのかと思ったが、少年はペンダントを戻すとため息を吐き出す。
どうやらドルトンと縁がある貴族の息子らしく、少年は屋敷を見上げた後、緊張した面持ちで背中の大剣に視線を向ける。少年の大剣はよくよく見ると鷲のような紋様が刻まれており、こちらの紋様は先ほど取り出したペンダントにも刻まれていた。
「僕の名前はコウ、ホーク伯爵家の次男だ」
「伯爵……!?」
「どうしても確認したいことがあってここへ来た。どうか許してくれ」
「い、いえいえ!!まさかご貴族様とは知らず、無礼な態度を……」
「す、すぐに主人を呼んできます!!」
「いや、良いんだ。それよりもここに赤毛熊を倒した人間が滞在していると聞いている。その人に会わせて貰いたい」
「えっ……」
伯爵家の次男である事を明かしたコウという名の少年は使用人たちに赤毛熊を倒した人物の事を尋ねると、彼等には何の話か分からず、戸惑いの表情を浮かべる。その態度にコウは不思議に思うが、ここでナイが仕方なく名乗り上げる。
「あの……赤毛熊を倒した人を探しているんですよね?」
「そうだ、君は知っているのか?」
「知っているも何も……赤毛熊を倒したのは僕です」
「……は?」
ナイの言葉にコウは呆気に取られ、最初は彼はナイが冗談でも言っているのかと思ったが、すぐに苦笑いを浮かべて優しく諭す。
「いや、悪いがそういう冗談に付き合っている暇はないんだ。君は赤毛熊がどんな化物か知っているかい?とても君のような子供に倒せる相手では……」
「知っています。嫌という程……よく知っています」
「……冗談じゃないのか?」
コウはナイが嘘を吐いているようには見えず、動揺したように彼は後退る。コウの目から見てもナイはただの普通の少年にしか見えないが、白狼種が懐いているという時点で普通の子供ではない事は明白だった。
だが、赤毛熊のような化物を子供のナイが倒したと言われても信じられず、コウの想像では赤毛熊を倒したのは大人の剣士だと思い込んでいた。しかし、実際に会ってみれば自分よりも年下の子供が現れ、とても信じられるはずがない。
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