第151話 訪問者

「ふうっ、それにしても今日はいい天気だな。こんな日は昼寝したい気分になるよ」

「クォオッ……」



ナイの言葉を聞いてビャクも欠伸を行い、その様子を見てナイはこのまま彼と昼寝しようかと考える。ここ最近は色々とあってゆっくりする時間もなく、こうして彼と一緒にのんびり過ごす時間は久しぶりだった。


ちなみにマホと彼女の弟子たちもまだ街に滞在しており、マホに関しては冒険者ギルドの方にて立ち寄っている。弟子たちは彼女の傍に付いており、しばらくは会っていない。



(そういえばマホさんに弟子にならないかと言われたけど、あれ本気だったのかな……聖属性の魔力の使い方を教えてくれると言ってたけど、どうしようかな)



マホから弟子にならないかと尋ねられた事を思い出し、彼女によるとナイは自分の魔力を使いこなせていないという。聖属性の魔力は回復魔法だけではなく、他にも使い道があるとマホは告げた。


自分の魔力の正しい使い方があるという彼女の言葉が気にかかり、今度マホと会う時があればナイは弟子入りを申し込むか悩む。エルマやゴンザレスはともかく、ガロは彼が弟子入りするのを絶対に拒むだろうが、ナイとしては今以上に強くなりたいという気持ちはある。



(もっと強くならないと……大切な人を守るために)



ナイの耳にも最近では魔物の被害が世界各地で増加していると聞こえており、この街も魔物の大群に襲われたばかりである。しかも未確認ではあるが、ゴブリンキングなる存在が現れたかもしれず、もしも街に魔物が攻め寄せてきた場合、今度は防ぎ切れるか分からない。


ゴブリンメイジ以上の脅威が街を襲う可能性を考慮し、今まで以上にナイは強くなるための方法を探す。だが、これまで通りに無暗に技能を身に付けるだけではなく、今現在の自分が所持している技能を磨く事も考える。



(水晶の破片は返したからもう新しい技能は覚えられない……なら、覚えている技能をもっと磨かないと)



マホの推論によればナイの強さの秘密は彼がこれまでに身に付けた技能が関係しており、レベルが上がるのと同時にナイの技能も強化されている可能性が高い。


既にナイは20個近くの技能を覚えており、その影響でナイは常人の何倍もレベルが上がりにくい体質になっていた。しかし、貧弱の効果のお陰で日付が変更する度にナイのレベルは1に戻るため、いくらレベルが上がりにくくなったといってもレベル1からの状態ならば経験値の絶対量も少ない。



(もっと強くなるためには魔物と戦わないと……でも、街の付近は村と違ってあんまり魔物はいないからな)



先日に魔物の大群に襲われたばかりではあるが、基本的にはナイが暮らしていた村と比べて街の付近にはあまり危険度の高い魔物は多くない。無論、昔と比べれば魔物が数を増やしているのは事実だが、本来ならば街にわざわざ近付く魔物はいない。



(遠出をすればもっと魔物と戦える場所もあるだろうけど、ここの地理は詳しくないしな……ドルトンさんが戻ってきたら教えてもらおうかな)



昼寝すると決めながらもナイは考え事をしてしまい、眠るに眠れない。自分がどうすれば強くなるのかを考えていると、ここで屋敷の外側から声を掛けられる。




――頼もうっ!!誰かいないのか!?




ナイとビャクは屋敷の反対側の方から聞こえてきた声に跳び上がり、屋敷の裏庭に存在するナイ達の反対側という事は正門の方から誰かが声をかけてきた事になる。しかし、屋敷の正門から裏庭にまで声が響くなど相当な大音量だった。



「な、何だ!?」

「ウォンッ!?」



聞こえてきた声にナイとビャクは起き上がり、何事かと屋敷の裏庭から正門の方へと移動を行う。移動の際中にも声は聞こえ、どうやら声の主は男性らしい。




――ここに赤毛熊を倒した剣士がいると聞いた!!是非、会わせてもらいたい!!




正門の方角から聞こえてくる声によると、どうやら声の主はナイの事を探しているらしく、その声を聞いたナイは戸惑う。確かにナイは半年前に赤毛熊を討伐したが、その事実を知る者は少ない。


赤毛熊の討伐を果たした事を知っているのはナイが直接報告したドルトンと、彼から話を聞いているイーシャンぐらいである。この二人が他の人間に話した可能性もあるが、子供であるナイが赤毛熊を倒したと言われてもそんな簡単に信じるはずがない。


ちなみに世間一般では赤毛熊が姿を消した理由に関しては他の魔物に殺された、あるいは森の奥に消えたと囁かれており、半年間も姿を現していないのに未だに生きているという考えの人間も意外と多い。それもあってドルトンとイーシャンもナイが赤毛熊を討伐したという話は不用意には話さないと思うのだが、声の主は何故かナイが赤毛熊を討伐した事を知っているらしい。

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