第150話 平和を取り戻した街
「その様子だと知らないようだが、貴様の息子は下水道にて死体で発見されている」
「な、何だと!?息子が……!?」
「息子はどうやら貴様の悪事に気付いていたようだぞ。貴様と繋がっている商人を呼び出し、賄賂を受け取ろうとしていた。だが、魔物の襲撃を受けて下水道にて殺されたらしい」
「そ、そんな……」
「噂によると貴様の息子はかなりの浪費家だったらしいな。領主の息子という立場をりようし、街の住民に威張り散らし、金をばらまいては街の悪党と繋がりがあったらしいな」
「く、くそっ……あの馬鹿め!!なんてことを……!!」
「馬鹿は貴様だ!!親子ともども救いようのない奴らめ!!」
「ひいっ!?」
下水道にてナイが発見した領主の息子は商人から賄賂を受け取ろうとしたが、受け取りの際中に魔物に殺されてしまい、彼は下水道で死んでいた事はすぐに発覚した。
ナイから下水道で死んだ男の話を聞いていたドルトンとイーシャンはすぐに領主の息子だと知り、騎士団長に報告を行う。この話を聞いて騎士団長はすぐに誰もいない領主の屋敷を家探しすると、案の定というべきか不正の証拠品が見つかり、街を出る前に領主の断罪を行う。
「貴様は税金を支払えないと偽ったばかりか、あろう事かその金を自分の私財として蓄えた!!これだけでも重罪だが、貴様は領主の立場でありながら街の危機の時に真っ先に自分が安全な場所に避難し、何もしなかったな!!」
「ひいいっ!?お、お待ちください!!誤解です、誤解なんです!!」
「黙れ!!本来ならばこの場で首を切り落としてやりたい所だが、神聖な教会でそのような真似は出来ない。だが、この場を以て貴様の貴族の位を剥奪しする!!今この時から貴様はこの街の領主ではない、ただの平民だ!!」
「そ、そんな!?何の権限があってそんな事……」
「権限だと?貴様は私を誰だと思っている?」
騎士団長は怯えきっている領主を見下ろしながら兜に手を伸ばすと、顔を遂に晒す。兜が取り外されるとまるで女性のように美しく整った顔立ち、それでいながら腰元まで届きそうな黒髪が露わになる。
「この私が王国の第二王子、リノである事を忘れたか!!貴様のような悪徳貴族、父上にわざわざお伺いを立てる理由もない!!」
「ひいいっ!?」
「貴様のような悪党は許さん!!殺さなかっただけでも有難いと思えっ!!」
――銀狼騎士団の団長であるリノは王国の王子であり、ただの田舎領主の貴族が逆らえる相手ではない。この「イチ」の街の領主は魔物の襲撃の際に何も対処せず、自分だけが安全な場所に避難していた事を罰せられ、貴族の身分を剥奪される。
さらに裏で賄賂を受け取っていた事も発覚し、領主は犯罪者として拘束され、王都へと送り込まれる。彼の家族は息子しかおらず、その息子も殺されていた。新しい領主が決まるまでの間は街の住民からも人望が厚い冒険者ギルドの管理者であるギルドマスターに決まったという。
街に侵入してきた魔物達は討伐を果たされ、銀狼騎士団が任務のために街を離れた後は他の街から派遣された冒険者が到着し、街は平和を取り戻す。
魔物による街の被害は大きく、領主が断罪されるという事態に陥ったが、それでも街の潰滅だけは避けた事は幸いだった。そして事件から数日後、街の北側に避難していた住民達も家へと戻り、ナイもドルトンの屋敷へと戻り、彼の元に世話になっていた
「ふうっ……やっぱり、平和が一番だね」
「ウォンッ!!」
ナイは屋敷の裏庭にてビャクと戯れ、屋敷の外の風景を確認する。現在の街は復興作業が始まっており、魔物に破壊された建物の修繕が行われていた。
陽光教会から出てきたナイはもう帰る場所もなく、治療中のドルトンの身を案じて彼の屋敷に世話になっていた。イーシャンの方は怪我人の治療に忙しく、最近は姿を見せていない。
「ビャク、これから俺達どうしようか……村に戻って暮らすわけにもいかないし」
「クゥ〜ンッ?」
ビャクの身体を撫でながらナイは今後の事を考え、非常に思い悩む。自分が育った村に戻っても誰もおらず、もう昔のように暮らす事は出来ない。かといってドルトンの元で世話になるのも悪い気がした。
ドルトンはナイの事を気に入っており、養子として迎え入れようかと告げてくれたが、ナイはそれを断る。ドルトンの事は好きだが、ナイにとっての父親はアルだけであり、他の人物を父親と呼びたくはない。
それにドルトンの養子になればナイも商人の息子として商業の勉強をしなければならない。しかし、生まれた時から狩人の息子として育てられたナイにとっては自分が商人なるなど想像もつかず、そもそもなる気も起きない。
「これからどうしようか……旅に出て、自由気ままに生きてみようかな」
「ウォンッ!!」
ナイの言葉を聞いてそれも悪くはないとばかりにビャクも鳴き声を上げる。ナイは昔、アルが旅をしていた事は聞いており、彼も若い頃は冒険者稼業を営みながらも世界中を旅したという話は聞いている。
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