第149話 領主の断罪

「……さっきの二人組のように既に他の街から冒険者が派遣されているはずだ。我々はこの後は街を巡回した後、この街の領主に報告してからゴブリンキングの調査を行う。君達はどうする?」

「私達はマホ魔導士が目覚めるまで安全な場所に移動します」

「そうか、ならば私の配下を数名護衛させよう」

「あの……実はこの近くにまだ避難していない人たちがいるんですけど、その人達も一緒に連れて行ってくれませんか?」



エルマの言葉を聞いて騎士団長はすぐに配下を護衛に付けさせようとするが、それを聞いたナイは口を挟み、この際に屋敷に残したドルトン達の事も知らせる。


マホが用意した魔除けの護符によって屋敷は守られているが、やはり人が多い場所に移動する方がドルトン達も安心するだろうと思い、彼等も連れて行きたい事をナイが伝えると騎士団長は快く承諾してくれた。



「そうか、まだ避難を終えていない住民が残っていたか……いいだろう、我々が保護しよう」

「ありがとうございます!!」

「礼を言う必要はない、本来ならば我々が王国の民を守るべき立場なのだからな……」



ナイの言葉を聞いて騎士団長は申し訳なさそうな声音を上げ、彼としてもこの街を放置していくのは忍びない。しかし、任務を優先しなければならず、用事を終えればすぐに騎士団はゴブリンキングの調査を再開しなければならない。



「では参ろうか……そうだ、君達は領主の居場所を知っているか?」

「あ、それなら陽光教会の方で見かけましたけど……」

「そうか、ならば教会へ向かえばいいのか」

「でも……その領主に関して報告したい事があるんです」

「報告?」



騎士団長はナイの言葉を聞いて戸惑うが、ナイは下水道にて見かけた死体の事を思い出し、この際に彼に話す事にした――






――それからしばらく時間が経過すると、陽光教会の元に騎士団長は訪れ、この場所に避難していた領主と面会する。領主は相手が銀狼騎士団の団長だと知ると、媚びへつらう。



「こ、これはこれは銀狼騎士団騎士団長殿!!まさか貴方のような高貴な御方が救援に駆けつけてくれるとは……恐悦至極でございます!!」

「領主殿、顔を上げてください。私がここへ赴いたのはただの偶然です、任務の際中にこの街が魔物に襲われたと聞き、駆けつけてきただけです」

「そ、そうでしたか……しかし、騎士団長殿がわざわざここへ来られたという事は、もうこの街の安全は確保されたも同然……ですよね?」



領主は騎士団長の顔色を伺うように尋ねると、そんな彼の態度に騎士団長は甲冑越しにため息を吐き出し、彼に対して羊皮紙を差し出す。唐突に差し出された羊皮紙に領主は訝し気な表情を浮かべる。



「これは……なんでしょうか?」

「いいから自分の目で確認しなさい」

「はあっ……な、こ、これは!?」



羊皮紙の内容を確認した瞬間、領主は顔色を青ざめた。なにしろその羊皮紙の内容は彼がこの街の商人から賄賂を受け取っている証拠になりえる資料だった。



「そちらの資料は貴方の屋敷にて発見した物だ。その内容によると、どうやら貴方はこの街の商人から相当な額の賄賂を受け取っている様子だな」

「な、何だと!?我が屋敷を勝手に入ったのか!?」

「誤解しないで貰いたいが、我々としては家探しするつもりはなかった。だが、街中に入ってきた魔物がどうやら貴方の屋敷に入り込んだという情報が入ってな。我々は魔物の討伐のために屋敷に入らせてもらった」

「そ、そんな言い訳が通ると思っているのか!!」

「言い訳も何もこれが事実だ。それよりもこの資料の説明を聞かせて欲しいのだが?」



領主は騎士団長の言い分に激高するが、そんな彼に対して騎士団長は圧をかけると、領主はその迫力に気圧されて萎縮してしまう。


騎士団長が入手した領主の屋敷にて発見した資料は言い逃れが出来ぬ証拠品であり、領主は必死に言い訳を考えるが、この証拠がある限りは言い逃れは出来ない。



「領主、確かこの街は魔物の被害も相次いで例年通りに税金を納められないという報告を行っていましたね。それに対して王国は承諾し、この数年の間は税金の金額を半分にしていた。しかし、この資料によると貴方は街の商人から相当な額の賄賂を受け取っている……それも税金を余裕で支払えるほどの額だ」

「い、いや、それはですな……」

「貴方は魔物の被害を理由に税金の減額を申し立てた。しかし、実際には貴方は税金の減額分以上の金を商人から賄賂として受け取り、その金を自分の物にして美術品を買い集めていた。これは事実ですね」

「そ、そのような事は……」

「見苦しいぞ!!貴様の悪事は全て把握している!!」

「ひいっ!?」



怒鳴りつけられた領主は頭を抱え、その様子を見て騎士団長は腰に差している剣に手を伸ばす。そして領主に対してどうして彼の悪事が発覚したのかを話す。

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