第146話 王国騎士団
「左腕を怪我していたのか?」
「うん、そう思ってたけど……気のせいだったのかもしれない」
「……ともかく、今はここを離れましょう。そういえばガロは何処に?」
「ウォンッ」
エルマの言葉を聞いたビャクは近くの建物を指差し、その中にガロを避難させたのかと思ったが、建物の陰から疲れた表情を浮かべたガロが現れる。
「こ、この馬鹿犬が……こんな所に放り込みやがって」
「ガロ!!無事だったか!!」
「馬鹿は貴方の方でしょう!!勝手に老師の許可もなく、獣化を発動させるなんて……」
「獣化?」
ここでナイはガロの姿が戻っている事に気付き、先ほど彼の変身が「獣化」と呼ばれる技だと知る。ガロは歩くのもきつそうな程に疲労しており、しかも筋肉痛も引き起こしているのか彼は膝を着く。
「く、くそっ……おい、回復薬をくれ」
「それは後です。それよりも早く老師を安全な場所に運ばないと……」
「ガロ、俺が運んでやる」
「や、止めろ!!この年で野郎に抱っこなんて御免だ!!」
「クゥ〜ンッ……」
動けないガロをゴンザレスが持ち上げようとしたが、それをガロは拒否すると仕方がないとばかりにビャクが彼の服を咥え、自分の背中にへと移動させる。先ほどナイの元に戻る時に適当に路地裏に放り込んだ事を悪いと思っているらしい。
色々と会ったが街に集まっていた魔物の大多数は蹴散らした事は間違いなく、これで街の平和は保たれた。気絶した老師を安全な場所に避難させるため、そして街の北側に避難した者達にも報告するためにナイ達は北へ向かおうとした時、ビャクが何かに気付いたように首を向ける。
「ウォンッ!?」
「ビャク?どうしたの?」
「……おい、何か聞こえるぞ」
「何?まさか、敵か!?」
「いえ……馬の蹄の音ですね」
ナイとゴンザレスには何も聞こえなかったが、白狼種であるビャクと獣人族であるガロは聴覚が鋭く、森人族であるエルマもすぐに気づく。人間と巨人族と比べて獣人族や森人族は聴覚が優れており、こちらに向けて大量の馬が近付いてくる音を聞き取る。
しばらくするとナイとゴンザレスの耳にも遠くの方から近付いてくる馬の足音が聞こえ、やがて街道の方から白馬に跨った集団が現れる。全員が立派な鎧を身に付け、先頭を走っている人間は銀色の甲冑を身に纏っていた。
「あれは……何だ?」
「冒険者じゃなさそうだが……」
「あの格好、それに銀色の甲冑……まさか!?」
「エルマさん?」
「グルルルッ……!!」
近付いてくる謎の騎馬隊にナイ達は警戒心を高めるが、やがて騎馬隊はナイ達の前で立ち止まると、先頭を走っていた銀色の甲冑に身を包んだ騎士が馬上から名乗り上げる。
「我々は王国に所属する銀狼騎士団だ!!君達はこの街の住民か?ここで何が起きたのかを教えて貰うぞ!!」
「銀狼騎士団!?あの有名な王国騎士団の一つの……!!」
「王国騎士団だと……どうして騎士団がここにいるんだ!?」
「騎士団……?」
甲冑の騎士は銀狼騎士団と名乗り、この時にナイは声の野太さから男性だと知る。甲冑の騎士は顔を晒す事はなく、代わりに純銀製と思われるペンダントを取り出し、それを見せつけた。
「我々は王国に所属する騎士団である!!速やかに質問に答えてもらおう!!君達はこの街の住民か?それとも冒険者か?」
「い、いえ……我々は旅の者です。この街に立ち寄っただけです」
「そうか……ならば、この街で何か起きたのかは把握しているのか?」
「はい、実は……」
この場では気絶しているマホを除いて一番の年上であるエルマが騎士の質問に答え、現在の街の状況に関して説明を行う。この時に彼女は魔導士であるマホの事も明かし、彼女の広域魔法によって街に侵入した魔物の討伐を終えた事も話す。
最初は応対していた騎士もエルマの言葉には半信半疑であり、都合よく魔物が襲われた街に国内で3名しか存在しない魔導士とその弟子たちが立ち入り、事態を解決したと言われても簡単には信じられない。
「君の背負っている少女があの有名なマホ魔導士……か、俄かには信じがたいな」
「事実です。こちらをご確認ください」
「これは……!?」
エルマも疑われる事を承知だったらしく、彼女は身に付けていた水晶製のペンダントを取り出すと、それを騎士に渡す。騎士はそれを受け取ると、ペンダントに刻まれている紋様を見て驚く。
「その紋様のペンダントを所持する事が許されるのは魔導士の称号を持つ者のみです。万が一に備え、老師は私にそのペンダントを託していました」
「なるほど……確かに本物のようだ。疑ってすまない、それにしてもまさか魔導士殿がここにおられたとは……」
ペンダントを見て騎士はエルマが抱えている少女が本物の魔導士だと信じ、すぐに馬を降りて謝罪を行う。この時に彼はペンダントを返却すると、周囲の光景を確認して圧倒される。広域魔法の影響で近くの建物は崩れ、更に魔物の死骸の残骸も残っていた。
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