第147話 冒険者の到着

「それにしてもなんと凄まじい……竜巻が見えたと思ったが、まさか魔導士殿の広域魔法だったとは……」

「この場に存在した魔物は老師の魔法により、吹き飛びました。今頃は街の外に吹き飛ばされているでしょう」

「そうであったか……だが、気になる事がある。倒した魔物の中でゴブリンの最上位種であるゴブリンキングは存在したか?」

「最上位種……?」



最上位種とは進化を果たす魔物の最終進化形態であり、上位種の上位互換である。ゴブリンの場合は進化を果たせば「ホブゴブリン」に進化するが、実はまだ進化を果たす事が出来る。


通常種のゴブリンがホブゴブリンに進化する事も稀だが、更にホブゴブリンが最上位種である「ゴブリンキング」に進化する事は滅多にない。実際に過去の歴史でも最後にゴブリンキングの存在を確認されたのは100年以上前だと言われていた。



「ゴブリンキングだと……まさか、ゴブリンキングが確認されたのか!?」

「あの伝説の魔物が……!?」

「いや、我々もゴブリンキングの存在はまだ確認していない。しかし、近年では各領地にてゴブリンの被害が異常なまでに多発している。このゴブリン達の活発的な行動の原因はゴブリンキングの仕業ではないかと考えられているのだ」

「ゴブリンキング……」



ナイは騎士の話を聞いて自分が倒した「ゴブリンメイジ」の事を思い出す。まさかあのゴブリンメイジがゴブリンキングだとは思えず、そもそもゴブリンメイジは亜種であって、ゴブリンの上位種ですらない。



「あの……ゴブリンキングというのは見た事がないので分かりませんけど、この街を襲った魔物を統べていたのはゴブリンメイジです」

「何だって……そうか、ゴブリンメイジか」

「騎士団長、ここも外れの様です。すぐに捜索を再開しましょう」



銀狼騎士団の団長に対して配下の兵士が声をかけるが、それを聞いたナイは街がこんな状況だというのに騎士団が離れるのかと信じられない想いを抱く。王国に所属する騎士団ならば領地の民を守るのも仕事の内だろうと思ったが、それはエルマが代弁してくれた。



「お待ちください、この街にはまだ魔物が潜伏している可能性もあります!!第一に南門の城壁は破壊され、魔物が街に入り込める状態ですよ!!」

「それは分かっている。だが、我々の任務はゴブリンキングの捜索……もしもゴブリンキングが本当に現れたというのであればこの国に危機が訪れる」

「なら、この街の人間はどうでもいいというのか!?」

「そうは言っていない……我々の代わりに他の街から冒険者の要請を行っている。彼等がここへ訪れれば街の平和は保たれるだろう」

「冒険者?そんな簡単に冒険者が集まるはずがないでしょう!!」



街が魔物に襲われてから1日程度しか経過しておらず、他の街に連絡を送ったとしても冒険者が辿り着くまでにどれほどの時間が掛かるのか分からない。だが、唐突にビャクが何かを感じたように彼は近くの建物の屋根の上に視線を向けた。



「ウォンッ!!ウォンッ!!」

「ビャク!?どうしたの!?」

「いったいなんだ……あれは!?」



建物の屋根に全員が視線を向けると、そこには黒装束の人物が立っており、怪しげな格好をしている二人組を見て全員が身構えるが、男女はやがて地上へ向けて飛び降りる。


かなりの高さから落下したにも関わらず、二人とも地上に着地する際は音も立てずに降り立つ。その光景を見て全員が驚き、ナイはすぐに二人が自分と同じように「無音歩行」の技能を覚えている事を見抜く。



(この二人もきっと隠密や無音歩行を習得しているんだ。でも、あんな真似は僕には出来ない……)



ビャクが気づかなかったらナイは二人の存在に気付く事もなく、また高度から落下しても全く音を立てずに着地するなどナイには不可能だった。どちらの人物もナイよりも「隠密」と「無音歩行」の技術を極めており、相当な実力者だと伺える。



「何者だ、貴様等!!」

「……何者だとは失礼な、我々は冒険者だ。ニーノからやってきた」

「この街が魔物に襲われた聞き、ここへ駆けつけてきたでござる」

「ござる……?」



二人組に対して騎士達は警戒するが、男性の方は両手を上げて敵ではない事を示し、自分達が冒険者である事を明かす。一方で女性の方は何故か不思議な語尾を付けており、その二人の態度にナイ達は呆気に取られたが、ここでエルマは何かに気付いたように驚きの声を上げた。



「その恰好、それに妙な言葉遣い、まさか貴方達は……金級冒険者のシノビ兄妹!?」

「金級冒険者だと!?」

「シノビ兄妹……その名前は聞いた事があるぞ」

「き、金級?シノビ?」



エルマの言葉に他の者達は驚きの声を上げる中、ナイだけは付いていけず、この二人が高名な冒険者である事は分かったが、具体的にはどれほど凄いのか分からない。

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