第145話 ナイの魔力量

――マホが生み出した広域魔法により、100を超える魔物の大群が吹き飛ばされる光景はナイ達も見届けた。あれほどの数の魔物を吹き飛ばす魔法の力にナイは驚愕し、その一方でエルマとゴンザレスは誇らしげな表情を浮かべる。



「何と凄まじい……流石は老師、年を重ねても魔法の力は全く衰えていませんね」

「凄い人だ……俺達があれだけ苦労した魔物を一瞬で吹き飛ばすとはな」

「本当に凄い……これが、魔法の力」

「クゥ〜ンッ……」



竜巻は全ての魔物を吹き飛ばすと、やがて縮小化して消え去り、地上には魔物の死骸の残骸すら残されていなかった。だが、竜巻の影響で地上の建物の何軒かは崩れてしまう。


あれほどの規模の竜巻ならば建物にも被害が出るのは仕方がなく、マホが魔法を発動しなければ今頃は魔物達はここで壮絶な殺し合いを続けただろう。もしも放置すれば新しい統率者が誕生し、再び魔物達はこの街の住民に被害を加える可能性もあった。



「ふうっ……流石にきついのう」



広域魔法を発動させたマホは流石に魔力を消耗しすぎたのか、頭を抑えて膝を着く。広域魔法は絶大な威力を誇る反面、使用者に大きな負担を欠けるため、本来ならば使い所を見極めなければならない。


これだけの威力の魔法ならば統率者など見つけずともすぐに攻撃を仕掛ければ良かったのではないかと思われるが、実際の所は広域魔法の発動にはかなりの時間と集中力を必要とする。


マホが建物の屋根の上に待機してからずっと彼女は魔力を練り上げ、広域魔法の準備を行う。当初の予定ではもう少し時間をかけ、統率者を見つけ出した時に攻撃を仕掛ける予定だった。しかし、予想外にも地上のナイ達が統率者を倒した事により、急遽彼女は広域魔法の発動を速めた。



(結果的には成功したが、やはり広域魔法を一人で発動させるのは無理があったか……これでは今日一日は魔法は控えなければならんな)



どうにか屋根から地上へ降りたマホではあったが、彼女は魔力を使いすぎてしまい、杖を利用してナイ達の元へ向かう。マホの姿を発見したエルマは慌てて彼女に駆け寄り、身体を支える。



「老師!!大丈夫ですか!?」

「大丈夫……とは言えんな、流石に今日は疲れた。もう休ませてもらうぞ」

「分かりました、後の事はお任せください」

「うむ……」



マホはエルマに背負われると、すぐに意識を失い、彼女に身を任せる。先ほどの広域魔法で相当に身体に負担が掛かったらしく、この状態ではしばらくは目を覚まさない。


その一方でナイの方も怪我をしたゴンザレスの治療のため、回復魔法を施す。ゴンザレスはゴブリンメイジの攻撃を受けた時に背中に酷い火傷を負うが、ナイが治療するとすぐに怪我は治っていく。



「どう?少しは楽になった?」

「ああ、痛みが引いていく……すまない、本当に助かった」

「ううん、僕を庇ったせいでこんな怪我を負って……すぐに治してあげるからね」



ナイは両手を構えると回復魔法の「ヒール」を発動させ、ゴンザレスの火傷を治そうとする。ヒールは回復魔法の中では初級呪文で本来ならば軽い怪我を治す程度の時にしか使用されない。


しかし、ナイはそこいらの魔術師よりも魔力を有しており、回復魔法の初級呪文であろうと彼が魔力を注ぎ込めば大きな効果を発揮する。徐々にゴンザレスの火傷は収まっていき、やがて完全に消えてなくなった。



「ふうっ……これでもう大丈夫だよ」

「お、おおっ……凄いな、身体が楽になった。いや、前よりも調子がいい気がする」

「えっ……もう治ったのですか!?信じられない、あれほどの怪我を治すなんて……」



マホを抱えたエルマが戻ってきたときにはゴンザレスの火傷は完治し、あまりにも早すぎる回復にエルマは戸惑い、やはりマホの言う通りにナイは普通の子供ではない事を思い知らされる。



(これほどの回復魔法を扱えるなんて……老師の言う通り、このナイという子の魔力は普通じゃない。もしも老師の元で磨き上げればきっと私達よりも……)



ナイの魔力量は明らかに異常であり、大怪我を治したにも関わらずにナイ自身は特に疲れている様子はない。魔力を消耗すれば本人にも大きな負担が掛かり、魔導士であるマホでさえも気絶するほどである。


しかし、ナイの場合は魔力量が多すぎてゴンザレスの治療を行っても魔力が尽きる事もなく、それどころか彼自身も影響を受けていた。



「あれ……おかしいな」

「クゥ〜ンッ?」

「どうした?何か気になるのか?」

「いや、さっきまで左腕が痛かったんだけど……今はなんともないや」

「えっ?」



先の戦闘でナイはガロに攻撃を仕掛けられた際、ナイは左腕を負傷したはずだった。しかし、いつの間にか左腕の痛みが治まっている事に気付き、不思議に思ったナイは腕鉄鋼を外すと、左腕には痣一つ残っていない事が判明する。

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