第137話 魔物の大進行
「老師、これはいったい……」
「ふむ……どうやら魔物どもめ、生き残った人間が北側に避難している事を知って本格的に侵攻を開始したようじゃな」
「そ、そんな!?」
「これだけの数の魔物が一気に押し寄せたら……」
マホの言葉を聞いてドルトンは絶望の表情を浮かべ、一方でナイも北側の状況は把握しており、現在の北側は冒険者と兵士によって魔物達が入り込めない様に、既に街の北側に通じる街道は封鎖されている。
しかし、ナイは目の前を通り過ぎる魔物の大群の進行を見てとてもではないが防ぎ切れないと思った。恐らくは100を超える魔物の群れが街の北側へ向けて移動をしており、このままでは避難した住民達が殺されてしまう。
「老師、どうにか出来ないのですか!?」
「ふむ、流石の儂もこれだけの数の魔物を一気に倒すのは無理じゃのう……今から街の北側へ先回りして結界を張る時間もあるまい」
「老師でもどうする事も出来ないのか?」
「くそっ、どうしてこんな事に……」
「おい、何でファングの奴等はゴブリンなんか乗せてるんだ?なんで魔獣が魔物に従っている?」
魔獣種であるファングが魔物であるゴブリンを背中に乗せて移動する姿にガロは戸惑い、彼はゴブリンを乗せるファングを見たのは初めてだった。ナイは昨日もゴブリンを乗せたファングを見かけたが、言われてみれば確かにおかしな光景だった。
「うむ、確かにそこは儂も気になって追った。ゴブリンの上位種であるホブゴブリンに通常種のゴブリンが従うのは分かるが、ファングが自分よりも弱いはずのゴブリンを背中に乗せているのか……そこは気になるのう」
「共生、でしょうか?力が弱い魔物同士がお互いに生き残るため、力を合わせて行動する事もあると聞いた事がありますが……」
「うむ、その可能性も十分に考えられる。しかし、どう見てもファングは力を合わせるというよりも従っているようにしか見えんのう」
ゴブリンを乗せたファング達の中には歩みが遅くなると、すぐに背中に乗っているゴブリンが頭を叩きつけ、移動を速めさせる。
「ギギィッ!!」
「ギャンッ!?」
「ギィアッ!!」
「グゥウッ……!!」
頭を小突かれたファングは機嫌悪そうにゴブリンに振り返るが、そんなファングに対してゴブリンは手にしていた武器を振りかざすと、それを見たファングは不満げな表情を浮かべながらも指示に従う。
「ほう、ゴブリンどもめ……どうやら武器を使ってファングを無理やりに従えさせておるようじゃな」
「あのゴブリンが……力ずくで従えさせているのですか?そんな事、あり得るのですか?」
「無論、ファング共もゴブリンだけならばあれほど恐れる事はあるまい。しかし、奴等の傍にはホブゴブリンも控えておる。もしもゴブリンに逆らえばあのホブゴブリン共が黙っておらんのだろう」
「ちっ、そういう事か……強い奴の影に隠れて偉そうにしやがって」
ゴブリンがファングを従える理由はホブゴブリンの存在が大きく、ファングたちは武装したゴブリンとホブゴブリンを恐れて逆らえない様子だった。それを見てガロは気に入らなそうな表情を浮かべる。
あくまでもファングは従っているのは力の強い存在であり、渋々と服従している様に見えた。もしもホブゴブリンという存在がいなくなればファングはゴブリンに従う理由はなくなり、反旗を翻すだろう。しかし、ホブゴブリンが健在の間はファングがゴブリンに逆らう事はあり得ない。
(……コボルトの姿は見えないな。ここにはいないのかな?)
魔物の群れの中にはナイはコボルトの姿を見ておらず、昨日はコボルト亜種に襲われたが、あのコボルトは偶然にも街中に入り込んだのかと不思議に思う。だが、今は目の前の魔物の群れを何とかする方が先決であり、ナイはマホに振り返る。
「マホさん、何か手はないんですか?」
「うむ、流石にこのまま手をこまねいてみているわけにはいかんな。しかし、これだけの数の魔物となると迂闊に手出しは出来ん。だが、このまま見過ごすわけにはいかん……となると、この魔物の群れの親玉を見つけ出して始末せねばならんな」
「親玉……?」
マホの言葉を聞いてナイは彼女に振り返ると、マホは目を閉じて杖を構える。何をするつもりなのかとナイは不思議に思うと、エルマが彼の肩を掴む。
「しっ……老師は今は魔力感知を発動させています。話しかけてはいけませんよ」
「魔力……感知?」
「言葉通りに魔力を感じとる技能です。老師は今、魔物の群れの中から最も強い魔力を持つ存在を探しています」
「うむ……見つけたぞ」
ナイがエルマの説明を聞いている間にマホは目を開くと、彼女は魔物の群れを杖で示し、大群の中央の辺りに魔物達を統率すると思われる存在を感じ取った。
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