第122話 思いもよらぬ再会

(よし、屋敷が見えてきた……あと少しだ)



人目に付かないようにナイは路地裏を利用して移動を行い、遂に屋敷が視界の範囲に捉えられる距離まで接近する事に成功した。だが、ここでナイは屋敷の門が破られている事に気付き、焦りを抱く。



(門が壊されている……!?まさか、魔物が入り込んだ!?)



屋敷の門が破壊されている光景を見てナイは焦りを抱き、更に耳を澄ませると屋敷の方から獣のような声が聞こえてきた。それを耳にしたナイは居ても立っても居られず、屋敷へ向けて駆け出す。



(遅かったのか!?いや、きっと皆は地下の倉庫に避難しているはず!!)



手遅れだったのかと思いかけたナイだが、すぐにイーシャンの話を思い出して屋敷の地下には倉庫が存在し、その場所に立て籠もれば魔物でも簡単に入り込む事は出来ないと聞いていた。


皆が無事である事を祈りながらナイは屋敷の敷地内へと入り込むと、敷地内の地面に狼のような足跡が残っている事に気付く。それを見たナイは魔獣が入り込んだのかと思ったが、妙に見慣れた足跡だと気付く。



「えっ!?この足跡って……」



足跡を確認したナイは信じられない表情を浮かべるが、すぐに建物の裏手の方から狼の鳴き声が響く。その声を耳にしたナイは慌てて建物の裏手の方へ向けて駆け出す。



(まさか、有り得ない……けど、もしかしたら本当に!?)



ナイは全力疾走で建物の裏手に回ると、そこには武器を手にしたホブゴブリンと対峙する全身が白毛で覆われた狼の姿が存在し、その姿を確認したナイは驚愕のあまりに言葉を失う。




――ウォオオオンッ!!




白狼種のビャクは咆哮を放つと、ホブゴブリンに対して突っ込み、鋭い牙でホブゴブリンの頭に噛みつく。ホブゴブリンは必死に逃れようとしたが、ビャクは容赦せずにホブゴブリンの頭を咥えた状態で振り回し、地面に叩きつける。



「アガァッ!!」

「グゲェッ……!?」



地面に叩きつけられた際にホブゴブリンは鈍い音を立て、どうやら叩きつけられた際に首の骨が折れたらしく、そのまま地面に放り込まれる。


既に屋敷内に侵入していた魔物はビャクだけで対処したらしく、彼の傍にはホブゴブリンだけではなく、ファングやコボルトの死骸も横たわっていた。ビャクは倒れた魔物の死骸に視線を向け、勝利の雄叫びを行う。



「ウォオオンッ!!」

「……ビャク」



たくましく育った自分の相棒の姿にナイは感動を覚え、無意識にビャクの元へ向けて歩む。すると、ビャクも臭いで気づいたのか鼻を引くつかせて振り返ると、そこには待ちわびた自分の主人の姿が存在し、嬉しそうな声を上げてナイの元へ向かう。



「ウォンッ!!」

「うわっ!?」



興奮して飛び込んできたビャクは勢いあまってナイを押し倒し、そのまま彼の顔を舐め尽くす。そんなビャクに大してナイは苦笑いを浮かべながら彼の好きにさせ、再会を喜ぶ。



「ビャク、元気だったんだね……ごめんね、迎えに来れなくて」

「クゥ〜ンッ……」

「でも、これからはずっと一緒だよ」

「ウォンッ!!」



ナイの言葉を聞いてビャクは嬉しそうに彼の胸元に鼻先を擦りつけ、それに対してナイはくすぐったく思いながらもビャクの頭を撫でる。すると、屋敷の窓が開いて何故か頭に鍋を被ったイーシャンが姿を現す。



「お、おい!!そこにいるのはナイか!?」

「あ、イーシャンさん……無事だったんですね!!」

「ナイ?今、ナイと言ったか!?」

「ドルトンさん!?」



窓から出てきたのはイーシャンだけではなく、全身に包帯を巻いたドルトンも現れると、ナイは驚いた声を上げた――






――その後、ナイはドルトンの部屋に移動して自分がいなくなった後の出来事を二人から詳しく聞く。イーシャンとドルトンの話によるとナイがいなくなった後、すぐにこの屋敷は魔物に襲われたという。



「お前が行った後、ここにまた魔物の群れが乗り込んできてな。結局は門を壊されて中に侵入を許してしまった」

「そんな……」

「全員が倉庫に避難する暇もなく、もう駄目かと思った時、ここにビャクの奴が急に現れて魔物を蹴散らしてくれたんじゃ」

「ウォンッ!!」



ナイが去った後、屋敷の中に魔物の群れが乗り込んだ際、唐突にビャクが現れて屋敷内に侵入した魔物の群れを蹴散らしたという。いったいどうしてビャクが駆けつけてくれたのかは不明だが、ビャクのお陰で屋敷にいた全員が命拾いしたという。


屋敷内に残っていた者達は既に大半が地下の倉庫に避難済みらしく、イーシャンとドルトンも立て籠もるつもりだったが、ビャクの事が気になって二人は最後までここへ残っていたという。



「この馬鹿でかい狼のお陰で俺達は助かったんだ。それにしてもこいつ、いったい何処から現れたんだ?」

「クゥン?」

「うむ、恐らくは魔物が乗り込んできた時に乗じて一緒に入ってきたのだろう……どうやら南門の城門は破られたそうだからな」

「えっ……そうなの?ビャク?」

「ウォンッ!!」



窓の外に待機するビャクはナイの言葉を聞いて頷き、どうやら彼は下水道を通過して侵入してきたわけではなく、街の南門から入ってきたらしい。


北側の兵士の話によると城壁は破られていないと言っていたが、既に南門の城門は魔物達に破壊され、そこからビャクは街の中に入ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る