第121話 屋根の上の攻防
(まずい、囲まれた!!それにこの数……逃げないとまずいっ!!)
ナイは周囲の建物に現れたゴブリンに視線を向け、その数は十数匹だった。どうやらナイが建物の中に突っ込んだ時から気付かれていた様であり、彼が出てくるのを待ち伏せていたらしい。
ボーガンを手にしたゴブリンの集団に囲まれたナイは相手が矢を放つ前に逃げようとするが、既に殆どのゴブリンが装填を終えており、ナイへ向けて矢を放つ。
『ギィイイイッ!!』
「くそっ……このぉっ!!」
周囲を取り囲んだゴブリン達はナイへ向けて矢を発射すると、それに対してナイは旋斧を抜き、円斧の要領で旋斧を振り払い、矢を弾き返す。
ゴブリン達は矢を弾かれた事に驚き、慌てて次の矢を装填しようとした。だが、普通の弓矢と違ってボーガンの場合は矢の装填に多少の時間が掛かり、その隙を逃さずにナイは駆け出す。
(早くここから離れないと……こうなったら跳ぶしかない!!)
ナイは地上へ降りても上から狙い撃ちされると判断し、それぐらいならば別の建物の屋根に移動して逃げる方が得策だと思い、先ほど覚えたばかりの剛力と跳躍の技能を同時発動させ、高速跳躍を行う。
「うおおおおっ!!」
『ギィアッ……!?』
助走を付けてナイは屋根の上から跳び込むと、街道を越えて10メートル以上は離れていた屋根の上に着地を行う。着地の際に屋根が軋む音が鳴るが、それでも今回は壊れずに済んだ。
これまでの跳躍と比べても飛距離も移動速度も伸びており、同時に足への負担も大きく、ナイは屋根の上に着地するとへたり込む。流石に続けて二つの技能を同時に発動させるのは肉体の負荷も大きく、ナイは脂汗を流しながらもゴブリン達の方へ振り返る。
「ギギィッ!?ギギギッ……」
「ギィアッ!!」
「ギィイイッ!!」
ゴブリン達はナイに向けて鳴き声を放つが、流石に彼のような真似は出来ず、悔しそうに地団駄を踏む。その様子を見てナイは安心仕掛けるが、すぐに気を引き締め直す。
(あいつらが追いつく前に逃げないと……)
両足の負担は大きいが、今は一刻も早く離れる必要があり、ゴブリン達に追いつかれる前にナイは地上へと降りてゴブリン達の視界から逃れる――
――その後、ナイは路地裏に身を隠し、体力を完全に回復するまで休息を取る。イーシャンから受け取った丸薬を飲み込み、体力の回復と空腹をどうにか満たす。お世辞にも美味しいとは言えないが、今は贅沢を言っていられない。
(よし、隠密と無音歩行も使える様になった。これなら気づかれずに移動できそうだ)
ナイは自分の足音がならない事を確認すると、無事に無音歩行の技能が復活した事を確認する。これで大分扱える技能も取り戻し、これからの移動は魔物に見つからずに済みそうだった。
隠密の技能は存在感を消し、無音歩行は足音を立てずに移動を行えるため、この二つを組み合わせれば魔物に気付かれずに移動するのは容易い。しかし、嗅覚が鋭い魔物には臭いで気づかれる恐れがあるため、過信は出来ない。
(屋敷まで大分近付いたけど……冒険者や兵士の姿が見えない。やっぱり、ここまでは来てないのかな……)
最初に遭遇したコボルト亜種に襲われていた兵士を除き、未だにナイは救助活動を行っている兵士と冒険者の姿を見かけていない。もうこの辺りには救助部隊はいないのか、既に全員が街の北側に引き返した可能性もある。
(ここまで来たのに引き返すわけにはいかないけど、今戻っても全員を避難させる事が出来ない……けど、様子を見るぐらいはいいか)
屋敷に戻る前に出来れば救助部隊と合流したかったナイだが、その救助部隊が見つからない以上はどうしようも出来ず、ナイは一度ドルトンの屋敷に引き返す事にした。
隠密と無音歩行のお陰かナイは街中を移動しても魔物と遭遇する事はなく、途中で何度かゴブリンと出くわしたが、気付かれずにやり過ごす事が出来た。
「グギィッ!!」
「ギィッ……」
「ギギィッ……」
移動の際中にナイはホブゴブリンがゴブリンを従えて街道を歩いている姿を発見し、どうやらゴブリン達も見回りを行っているらしく、人間を探している様子だった。その姿を見てナイは街を襲撃した魔物達が普通ではないと再認識する。
(こいつら……人間みたいに武装するし、それに下水道から街に侵入するなんてやっぱり普通じゃない。まるで人間みたいだ)
今回の魔物の襲撃は明らかに異様であり、少なくとも野生の魔物が街に忍び込むために下水道を利用するはずがない。それに気になるのは今回の襲撃にはゴブリン種だけではなく、ファングやコボルトも加わっている事である。
基本的にゴブリン種は同族には仲間意識があるが、他の魔物に対しては強い敵意を抱く。それはコボルトもファングも同様であり、本来ならば力を合わせる事など有り得ない。しかし、ナイは実際にファングを乗りこなすゴブリン達と遭遇していた。
本来ならば敵同士であるはず魔物が手を組んでいる事自体が異常であり、今回の魔物の襲撃は何者かの意志を感じた。しかし、その何者かについては現時点では分からず、そもそも考えた所で仕方がない。
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