第109話 冒険者の救援

「あいたぁっ!?」



跳躍に失敗して派手に転んでしまったナイは苦悶の表情を浮かべ、どうにか起き上がろうとした。だが、足が思うように動かず、上手く立ち上がる事が出来ない。



(しまった……調子に乗り過ぎたかな)



ここまでの道中ナイは跳躍を多用したため、いつの間にか両足に大きな負担が掛かっていたらしく、足が痺れて上手く動けない。すぐにナイはイーシャンから受け取った小袋から彼特製の丸薬を取り出す。


丸薬を飲み込んだナイはそのあまりの苦味に吐きそうになるが、どうにか口元を抑えて飲み込む。すると疲れが一気に吹き飛ぶような感覚を覚え、しっかりと「自然回復」の技能も発揮され、すぐに両足の痺れも消えていく。



「ふうっ……大分楽になったな。けど、これからは跳躍を使う時は気を付けないと……」



まだ完全に動けるようになったわけではないが、それでもナイは立ち上がると、冒険者ギルドへと向かう。今は休んでいる暇などなく、何とか身体を動かしてギルドが存在する方向へ向かう。



(あと少しのはずだ……それまで頑張らないと)



足の感覚を完全に取り戻すまで休んだ方が良いかもしれないが、一刻も早くナイはドルトン達の救援を頼むため、身体に負担をかけてもギルドへ向かおうとした。しかし、そんなナイの元に更なる危機が襲い掛かる。




――ウォオオンッ!!




何処からか狼の鳴き声が響き渡り、驚いたナイは後方を振り返ると、そこには街道を駆け抜ける十数体のファングの群れが見えた。


ナイはイーシャンからこの街に入り込んだのはゴブリンとホブゴブリンだけではないと聞いていたが、ファングも街中に侵入してきた事を初めて知る。しかも姿を現したファングの背中には何故か武器を手にしたゴブリンも乗り込んでいた。



「ギギギッ……!!」

「ガアアッ!!」



ファングに乗り込んだゴブリンは手斧を握りしめ、ナイへ向けて武器を構える。それを見たナイはゴブリンがファングを乗りこなしている事に驚くが、今は戦闘に集中する。



「このっ!!」

「ギィアッ!!」

「ガウッ!!」



先頭を走っていたファングに乗り込んだゴブリンに対してナイは旋斧を振り払うが、ゴブリンはファングの背中から跳躍し、一方でファングの方は身体を低くしてナイが振り払った刃を回避した。



「ギィイッ!!」

「ガアッ!!」

「うわっ!?」



攻撃を避けた際にゴブリンはナイの身体に蹴りを入れ、空中で体勢を整えるとファングの背中に乗り込む。曲芸じみた軽業にナイは驚き、一方でゴブリンとファングは距離を取る。


ファングに乗り込んだゴブリンの集団はナイを取り囲むように円を描きながら移動すると、ナイはその様子を見て冷や汗を流し、まさか魔物と魔獣が手を組んで襲ってくるなど考えもしなかった。



(こいつら、かなり厄介だ……ゴブリンを倒そうとしてもファングが援護するし、逆にファングを倒そうとするとゴブリンがそれを邪魔をする。厄介な相手だな)



身軽で人間の武器も扱うゴブリンと、走力が高いファングがゴブリンの補助を行う。敵としてはかなり厄介であり、並のオークやホブゴブリンよりも手強い敵だった。



(くそ、体力が万全ならこんな奴等なんか敵じゃないのに……!!)



跳躍を多用して体力が削られたナイでは分が悪く、徐々にゴブリンとファングはナイの周囲を駆けまわりながらも距離を徐々に詰めていく。



(まずい、このままだとやられる……どうすればいい!?)



足の感覚が完全に戻るまでは跳躍は発動出来ず、ナイは追い詰められると、ここでゴブリンとファングに向けて大量の矢が放たれる。



『ギィアアアッ!?』

『ギャインッ!?』

「今だ!!敵は怯んだぞ!!」

「殲滅しろ!!少年を救えっ!!」

「えっ……?」



唐突に魔物達に放たれた矢と、何処からか聞こえてきた人間の声にナイは驚いて振り返ると、そこには冒険者と思われる集団と弓矢を構えた兵士の姿が存在した。


兵士達は矢を射抜いてナイを取り囲む魔物達に攻撃を仕掛け、一方で冒険者達は武器を手にして矢から逃れた魔物達を追い掛け回す。



「このっ!!」

「おらぁっ!!」

「死んじまえっ!!」

『ギィイイイッ!?』

『ギャンッ!?』



攻撃を受けたゴブリンとファングの群れは慌てて逃走を開始し、その場を離れていく。その様子を見届けたナイは駆けつけてきてくれた冒険者と兵士に顔を向けると、兵士の中から隊長格と思われる男性がナイの肩を掴む。



「君、大丈夫かい!?何処か怪我はしていないか?」

「あ、はい……助かりました、ありがとうございます」

「何、気にしないでくれ。市民を守るのは我々警備兵の仕事だからね」

「おいおい、俺達の事を忘れるなよ。冒険者だって一般人を守る義務があるんだぜ?」



兵士の言葉を聞いて魔物を追い払った冒険者達も口を挟み、どうやら彼等がこの街の守る警備兵と、冒険者である事をナイは改めて知る――

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