第110話 防衛線
――ナイは冒険者と警備兵に助けられた後、彼等に連れられて冒険者ギルドが存在する北の地区へ辿り着く。イーシャンの予想通り、既に北側では防衛線が貼られており、魔物の侵入を防ぐために大勢の兵士と冒険者が動いていた。。
大通りには馬車などの大型の乗り物を並べ、更には建物の中から家具を運び込み、通れない様に封鎖を行う。路地裏なども出入口を封鎖し、屋根の上を移動してくるのを警戒して弓兵を配置させる。
既に住民の殆どは北側へ避難しているらしく、動ける人間は一般人であろうと働かされていた。そして魔物に対抗する役目は冒険者と警備兵の仕事であり、ナイを救ったのは逃げ遅れた人々を救うために派遣された部隊だった。
「よし、魔物はいないな……」
「おい、梯子を下ろしてくれ!!」
「おお、戻ってきたのかお前等!!待ってろ、すぐに入れてやるからな!!」
ナイは冒険者と兵士と共に大きな建物に移動すると、屋根の上に待機していた兵士が梯子を下ろし、全員が屋根の上に移動する。梯子を登り切ると、ナイはあちこちの屋根に梯子が繋がっている事に気付き、どうやら橋代わりに利用されているらしい。
「ちょっと危ないが、ここから先は屋根の上を移動するぞ」
「落ちないように気を付けてくれ。もしも下に落ちてしまったら助けられないからな」
「あ、はい……」
「ここを通り抜ければもう安全だ」
梯子を利用してナイ達は別の建物の屋根の上に移動し、この際に梯子とは別に縄も取り付けられているため、その縄を手すり代わりにナイは無事に隣の建物へ辿り着く。
「ふう、渡り切れればもう大丈夫だ。大丈夫か?坊主、怪我をしてないか?」
「あ、はい……助けてくれてありがとうございました」
「気にするな、子供を守るのは大人の役目だ……と、言いたい所だが坊主は見た所、ただの子供じゃなさそうだな」
改めてナイは冒険者と兵士にレイを告げるが、彼等はナイの装備を見て普通の子供ではないと見抜き、特にナイが背負っている旋斧と盾を見て驚く。
「何だこの武器……それにその盾も、普通の盾じゃなさそうだな」
「坊主、お前も冒険者なのか?何処でそんなのを手に入れたんだ?」
「それは……」
「おっと、話は後だ。まずは地上に降りないとな……俺達もまだ仕事が残ってるんだ。悪いが、ここから先は一人で行けるか?」
ナイが説明する前に冒険者と兵士達は引き返し、ここから先はナイは一人で行動する事になった。地上へ降りると、どうやら大部分の住民がこの地区へ避難を終えていたらしく、大勢の人間が街道を渡り歩いていた。
ここまでは魔物が襲ってこないとはいえ、住民達の表情は暗く、中には街道に座り込んで塞ぎ込む者も多い。唐突に襲い掛かってきた魔物の群れのせいで住民達は不安を抱いており、誰しもが顔色が悪い。
「くそ、どうしてこんな事に……」
「お父さん、お母さん、何処にいるの……?」
「ねえねえ、何時になったら家に帰れるの?」
「おい、何処にいるんだ!?御袋!!親父!!居たら返事をしてくれ!!」
魔物から逃れた街の住民達の様子を見てナイは空しく思い、彼等の中には魔物によって家族から引き離された人間も多い。平和に暮らしていたのに急に魔物に襲われ、平穏な時を奪われた。
ナイは街の住民達の様子を伺いながらも街道を歩いていると、前方の方から騒ぎ声が聞こえてきた。どうやら兵士に一般人が突っかかっているらしく、怒鳴り声が街中に響く。
「くそ、ふざけるな!!お前等、何をしてたんだ!?街の中に魔物を侵入させるなんて……」
「お、落ち着いて下さい!!」
「これが落ち着いていられるか!!俺の娘はまだ3才だったんだぞ!?なのに、奴等のせいで……畜生、ふざけるな!!てめえらのせいだ、奴等に娘が連れ去られたのはてめえらのせいだからな!!」
兵士に怒鳴り散らしていた男性はどうやら自分の子供をゴブリンに攫われたらしく、彼は街を守るはずの警備兵がどうして魔物の侵入を防げなかったのか怒鳴り散らしているらしい。
確かに言われてみれば警備兵が魔物の侵入を許したのが今回の騒動の発端だが、この街には大勢の警備兵が配置されているはずであり、どうしてここまで魔物の侵入を許したのかはナイも気になった。すると警備兵の中から男性に言い返す者もいた。
「我々だって奴等の侵入を防ごうとしたさ!!だが、あいつらは急に現れたんだ!!城壁の見張りを怠っていたわけじゃない、あいつらは急に街の中から現れたんだ!!」
「何だと!?ふざけやがって、そんな言い訳があるか!!てめえらが奴等の侵入を見逃したんだろう!!」
「嘘じゃない!!現に城壁の門は何処も破られていない!!奴等は急に現れてこの街を襲って来たんだ!!」
「……えっ?」
警備兵の言い訳を聞いたナイは驚いた声を上げ、言われてみれば確かにナイは城壁から狼煙が上がっているのを見たが、警備兵によると四方に存在する城壁の門は破られておらず、現在も封鎖されているという。
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