第101話 詠唱短縮
「ナイ、無茶をしてはいけません!!あまり回復魔法を多用すると貴方の身が持ちませんよ!!薬があるうちは回復魔法は控えなさい!!」
「え、あ、はい!!」
インに注意されたナイは慌てて用意された薬を利用し、怪我人の治療を行う。だが、ナイ本人は今の所は回復魔法を使用での疲労はなく、むしろ薬で治療を行う方が勿体ないように思えた。
この半年の間、ナイは回復魔法の向上のために毎日魔法の練習を行ってきた。毎日の花壇の世話で植物を枯れさせない様に回復魔法を施し、そのお陰でナイの回復魔法は初級呪文でありながも大きな効果を発揮していた。
(この人の傷口は深いな……薬を塗っても間に合わない)
怪我人の中には傷が深く、薬を塗っても治りそうにない者はナイは躊躇せずに回復魔法を施す。薬の類を利用しても回復に時間が掛かるため、傷口が塞がる前に出血多量で死ぬ可能性もある人間はナイは躊躇いなく回復魔法を施す。
「すぐに治しますからね……ヒール!!」
「うおっ……き、傷が治った?」
「もう大丈夫ですよ……あれ?」
ナイは自分が回復魔法を施した際、ここで彼は自分が詠唱を省いて回復魔法を発動させる事が出来た事に気付く。今までのナイは回復魔法を発動する際は必ず「聖なる光よ、この者の傷を癒したまえ」という詠唱をしていたが、いつの間にか詠唱を省いて回復魔法は施せるようになっていた。
この時にナイは回復魔法を発動させる際、必ずしも詠唱は必要ではない事を知り、試しに今度は何も口にせずに掌を翳して回復魔法の発動を試みる。
(もしかしたら……)
意識を集中させ、ナイは怪我人の傷口に掌を構えた状態で詠唱を短縮して魔法を発動させようとする。その結果、魔法の発動に成功した。
「ヒール!!」
「ああっ……い、痛みが消えた。た、助かったよ」
回復魔法は無事に発動し、怪我人の治療に成功したナイは驚いた様に自分の掌を見つめ、どうやらこの半年間の魔法の練習のお陰で何時の間にか魔法の技術も向上していたらしい。
怪我人の治療の際にナイは余計な詠唱を省いて治療出来る事が判明し、このお陰でナイは時間を無駄に使わずに治療に専念できるようになった。しかもいくら回復魔法を使用してもナイは疲れる様子がなく、他の修道女よりも多くの怪我人の治療を行う。
「おい!!こっちも頼む!!」
「また怪我人を連れてきたぞ!!」
「こっちは重傷だ!!すぐに治療してくれ!!」
しかし、いくら治療を施そうと次々と新しい怪我人が送り込まれ、街中で魔物の被害が多発している事を暗に伺える。ナイも必死に治療を行うが、この時に彼は治療を終えた人間達から思いもよらぬ話を聞く。
「そういえばあの爺さん、大丈夫かな……」
「ああ、確かこの街の商人の中でも一番有名な人だったな。魔物に追われていたが、無事だと良いんだが……」
「えっ……ちょっと待ってください、それってまさか……」
ナイは怪我の治療中に聞こえてきた言葉に驚いて振り返ると、怪我を負った若者たちはここへ辿り着く前、街中で見かけた老人の話を行う。
「実は俺達、南の方から逃げてきたんだけど、その時にゴブリンに追われている爺さんを見つけたんだ。あの爺さん、何処かで見覚えがあると思ったが……確か、名前はドルトンだったっけ?」
「そうだ、思い出したぞ!!あの人、ドルトン商会の会長さんだろ?確かにあの顔、見覚えがあると思ったぜ!!」
「っ……!?」
二人の言葉を聞いてナイはドルトンが危険な目に遭っている事に気付き、治療を中断する。そして二人の若者の元へ詰め寄り、何処でドルトンを見かけたのかを尋ねる。
「ドルトンさんは!?ドルトンさんは無事なんですか!?」
「うわっ!?な、何だよ急に……」
「し、知らないよ……俺達だって逃げるのに精いっぱいだったんだ!!」
「くっ……!!」
ドルトンの危機を知ったナイは居ても立ってもいられず、礼拝堂の外に繋がる扉に振り返る。この状況下で自分が助けに向かったとしてもドルトンを救い出せるか分からない。そもそも忌み子のナイは外へ出る事を許されていない。
仮にドルトンを助けに向かってもまだ彼が生きている保証はない。だが、ここでなにもしなければそれこそ後悔すると思い、ナイは立ち上がると扉の方へ向かう。その様子を見ていたインは慌てた様子で彼を引き留めようとした。
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