第66話 魔法金属と魔道具
「はっ……?」
「えっ……今の、何?」
「ちょっ……何なんだよこれ!?」
「クゥ〜ンッ……」
吹き飛んだホブゴブリンの姿を見てナイ達は動揺を隠せず、ゴマンは自分の手にした大盾に視線を向けて戸惑う。見た限りではゴマンが思い切りぶつかった瞬間にホブゴブリンが吹き飛んだようにしか見えないが、その威力があまりにも大きすぎた。
すぐにナイ達はしりもちをついたゴマンの元に駆けつけ、即座にアルはゴマンが手にしている大盾を掴む。彼は改めてゴマンが持って来た大盾を調べるため、彼から取り上げる。
「ちょ、ちょっと見せてみろ!!」
「うわっ!?な、何だよ急に……」
「ゴマン、大丈夫?怪我をしてない?」
「あ、ああ……平気だよ」
ホブゴブリンを吹き飛ばした時にゴマンもしりもちを着いたが、彼自身は身体が少し痺れた程度で特に損傷はない。その様子を見てアルはゴマンから取り上げた大盾を軽く指で叩き、続いて近くにある石を拾い上げる。
「こいつはもしかしたら……悪ガキ!!こいつを持って立て!!」
「こ、今度は何だよ!?」
「爺ちゃん、何をする気なの?」
「ウォンッ?」
アルはゴマンを立ち上がらせると、彼に大盾を持たせて自分は少し離れた位置に移動を行う。そして彼は小石を握りしめると、ゴマンに目掛けて放り込む。
「しっかりそいつを持ってろよ……うおらぁっ!!」
「ひいっ!?」
「うわっ!?」
「キャインッ!?」
大盾に目掛けてアルは全力で小石を投げ込むと、それに対してゴマンは大盾を身構えた瞬間、小石が盾の表面に触れた瞬間に衝撃波のような物が発生した。その衝撃波によって小石は派手に吹き飛ばされ、ゴマンの正面に位置した樹木にめり込む。
小石は完全に樹木の中に埋まってしまい、その様子を見届けたナイとアルは信じられない表情を浮かべ、ゴマン自身も自分の大盾を見て動揺を隠せない。
「な、何だ?何が起きたんだ?」
「信じられねえ……こいつは魔道具だ!!」
「魔道……具?」
「そうだ、魔法金属で構成された特殊な道具の事だ!!お前が経験石を壊す時に使う壊裂もそのうちのひとつだ!!」
アルの説明を聞いてナイは経験石を破壊するときに利用する万力のような道具を思い出し、名前は「壊裂」というあの道具も魔道具と呼ばれる特殊道具の一種だと知る。
どうやらゴマンが身に付けている大盾は普通の金属で構成された道具ではなく、アルによると魔法金属と呼ばれる特殊な金属で構成された代物らしい。
「魔法金属は普通の金属とは違って特別な力があるんだ。種類はいくつかあるが、魔法金属は希少だから滅多に手に入らねえ……それに加工も難しいからな」
「で、でも……そんな話、僕は何も聞かされてなかったけど」
「なんで知らないんだよ!!お前の家の家宝だろうが!?」
「魔法金属……爺ちゃん、ならこの剣はどうなの?」
ナイは背中に背負っている旋斧に視線を向け、この旋斧も魔道具の類ではないかと考える。アルの家に伝わる家宝であり、100年以上も前に作り出されているのに一度も壊れた事がない剣だった。
しかし、仮に旋斧が魔法金属で構成されているといってもゴマンが所有する盾のような特別な力は今の所は特に感じられず、彼が所有する盾とは根本的に違う魔法金属が使用されているのかもしれない。
「旋斧に魔法金属が使用されているかは俺にも分からない。普通の金属じゃないのは確かだが、そいつに特別な力があるとは一度も聞いた事がないな」
「そうなんだ……」
「だが、この悪ガキが持っている大盾は本物だ。こいつは恐らく、外部から受けた衝撃を跳ね返す機能を持っている。しかも普通に跳ね返すだけじゃない、何倍にも威力を増加させて吹き飛ばすんだ」
「そ、そんな力があったのか!?凄い、これなら僕も冒険者に……あいたぁっ!?」
「馬鹿野郎、こいつは今のお前には扱い切れないだろうが……敵を吹き飛ばすどころか自分も倒れ込むようなら宝の持ち腐れだ」
調子に乗るゴマンに大してアルは彼の頭を小突き、確かに彼が所持する魔道具は優れた代物である事は間違いないが、肝心の使い手が未熟では意味をなさない。
今回はホブゴブリンを吹き飛ばす事に成功したが、この大盾の本来の使い方は相手の方から攻撃を仕掛けた際、それを跳ね返す方法が正しい。ゴマンの場合は大盾で自ら突っ込み、それが上手く反発して相手を吹き飛ばしたに過ぎない。
「こいつは滅多な事に使うんじゃないぞ。だいたい、大盾を失くした時にお前さんはどうやって戦うんだ?ちゃんと盾に頼る以外の戦い方も覚えろ!!」
「うぐぐっ……頭をぐりぐりするなよ!!」
「まあまあ……でも、ホブゴブリンがこんな場所にまでいるなんて思わなかったよ」
「クゥンッ……」
ナイの言葉を聞いてその点はアルも気になっていた。この森にはナイも頻繁に立ち寄っているが、ホブゴブリンと遭遇したのは初めての出来事だった。以前からゴブリンは見かける事はあったが、ホブゴブリンのような上位種までいるとは思いもしなかった。
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