第67話 滝の裏の鉱洞
「さてと……とりあえずはこいつ等の経験石を回収したら先に進むぞ。他に仲間がいるかもしれないからな、油断は禁物だ」
「うん、そうだね」
「け、経験石を回収って……こいつらを解体するのか?」
「何だ、いらないのか?1匹はお前が倒したんだから分けてやろうと思ったんだがな。そういう事なら俺達が貰うぞ」
「あげないよ!!やればいいんだろ、やれば!!」
からかうようなアルの言葉にゴマンは怒鳴り返し、腕を震わせながらも自分が倒したホブゴブリンの元へ向かう。経験石を回収するには胸元を切り開かねばならず、魔物の解体に関してはゴマンは初めての経験だった。
「く、くそっ……ここを切ればいいんだよな?」
「ゴマン、切る時はちゃんと力を込めないと駄目だよ。それにそいつは動けなくなっただけだから気を付けてね」
「もたもたしていると目を覚ますぞ、早く止めを刺せ」
「簡単に言うなよ……こ、このぉっ!!」
ゴマンは両腕を震わせながらもナイが貸してくれた短剣を受け取り、倒れているホブゴブリンの経験石の回収を行う。いずれ冒険者になるのならばこの手の魔物の解体技術を身に付ける必要があるため、それを察してナイもアルも手伝わなかった。
何だかんだあってホブゴブリンとの戦闘ではゴマンも頑張っており、偶然とはいえ倒す事にも貢献している。まだまだ未熟ではあるがゴマンも成長していた。その様子を見てナイは昔の自分を思い出し、何となく彼の事は放っておけなかった――
――ホブゴブリンを討伐した後、ナイ達は移動を再開して遂に滝が存在する場所へと辿り着く。以前にナイも訪れた事がある場所だが、この場所では魔物はあまり寄り付かず、だからこそビャクの隠れ家としては最適な場所でもある。
「しっかりと付いて来いよ、足元を滑らせて落ちても助けられないからな」
「こ、こんな場所を通らないといけないのか……!?」
「ビャク、ちゃんと付いて来てね」
「ウォンッ……」
滝の裏に存在する洞窟の中へ向けてナイ達は足元に気を付けながら移動し、遂には洞窟の入口の手前にまで辿り着く。外から見ると洞窟の出入口は滝に覆い隠される形で見つけにくく、この場所ならば確かに魔物からの隠れ家としては最適であった。
洞窟に辿り着くとアルは松明を取り出し、それに火を灯して洞窟の中を照らしながら奥へと歩く。彼の言う通りにかなり奥まで続き、しかも一番奥の方は大きな空洞が広がっていた。
「どうだ?ここなら人でも住めそうな程に広いだろう?」
「うわぁっ……凄いや」
「へえっ、僕の家でも入りそうなぐらい広いんだな」
「ウォンッ!!」
洞窟の奥の空洞に辿り着いたナイ達はその思いもよらぬ広さに驚き、確かにこの場所なら村の建物の中で一番大きい村長の屋敷でさえも入り込めそうな程だった。ビャクが鳴き声を上げると音が反響し、ナイ達は耳を塞ぐ。
「広さは申し分ないと思うけど……蝙蝠とかいないの?」
「いないな、よく見てみろ。ここはどうやら鉱洞みたいだな」
「え、鉱洞?」
ナイはアルの言葉を聞いて彼に振り返ると、アルは松明で洞窟の岩壁を照らすと、岩壁の一部が光り輝いていた。それを見てナイとゴマンは驚くと、アルは輝いている箇所に向けて何処から取り出したのかピッケルを叩き込む。
アルはピッケルで岩石の一部を掘り起こすと、剥がれ落ちた鉱石を掌に乗せてナイ達に見せつける。その功績は緑色に輝いており、まるで宝石のように光り輝いている事からゴマンが興奮した様子で尋ねる。
「こ、これなんだ!?まさか、宝石か!?」
「違うな、ある意味では宝石よりも価値のある代物だ……こいつは鉱石だ。だが、ただの鉱石じゃないぞ」
「どういう意味?」
「こいつは魔法金属ミスリルの原材料となるミスリル鉱石だ。こいつを上手く加工できれば鋼鉄よりも何倍も頑丈で耐久力も高い武器や道具が作り出せるんだ」
「魔法金属!?それって僕が持っている盾にも使われた金属の事か!?」
ゴマンは驚いた様子で自分の大盾とアルが手にしたミスリル鉱石と呼ばれる特殊な鉱石に交互に視線を向け、ナイも驚いた様にアルに顔を向けた。アルは二人に対してこの事は決して他の人間に話さないように注意した。
「ミスリル鉱石はこの地方では滅多に手に入る代物じゃねえ。ミスリルは魔法金属の中では比較的に手に入りやすくて加工しやすいが、逆に言えば魔法金属の中でも最も利用されている代物だ。だから無暗にこの事を他の連中に話すんじゃないぞ」
「え?どうして?」
「村の奴等はともかく、金に汚い外の人間に知られたらきっとここにあるミスリル鉱石を独占しようとする。そうなるとこの場所に人間が訪れる事になるんだ。そうなったらこいつも住めないだろう?」
「クゥ〜ンッ?」
今日からここで暮らすビャクのためにもアルはこの場所の事を3人だけに秘密にするように厳守し、特にゴマンに注意した。
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