第65話 剛剣

(大丈夫、あの時とは違う……焦る必要はないんだ)



ホブゴブリンと対峙したナイは冷静に相手の様子を伺い、決して焦らない様に心を落ち着かせる。2年前とは違い、今の自分なら絶対に負けないという自信もあった。


2年前の時は迎撃の技能や強化薬の類を利用しなければ勝てなかった相手だが、現在のナイには「剛力」の技能があるため、それを利用すれば決して勝てない相手ではない。



(発動させるのは一瞬……つまり、一撃で確実に仕留める!!)



オークの時は久々に旋斧を使用したので仕留めそこなったが、今回は状況が異なり、旋斧を抜いたナイはホブゴブリンの様子を観察眼の技能で伺う。ホブゴブリンの隙を一切見逃さず、隙を探る。



「ウォオンッ!!」

「グギィッ!?」



この時にナイの隣に立つビャクが鳴き声を上げ、それを耳にしたホブゴブリンの注意が一瞬だけ反れた。その隙を逃さずにナイは旋斧を握りしめて踏み込む。



「はあああっ!!」

「グギャッ……!?」



ビャクに気を取られていたホブゴブリンはナイの動作に反応が遅れ、その隙を逃さずにナイは強く踏み込む。ナイは全力で旋斧を振りかざし、刃を叩き込む。


ホブゴブリンの首元に旋斧の刃が食い込み、並の刃物なら通さないはずの頑丈な皮膚さえも容易く切り裂き、遂には首と胴体が切り離された。一撃でホブゴブリンの首を切り裂いたナイに対して周囲の者達は呆気に取られた。



「グギィッ!?」

「グギャッ!?」

「なっ……!?」

「はあっ!?」



驚いたのはホブゴブリンだけではなく、アルとゴマンも同様に驚愕を隠せなかった。2年前はあれほど苦戦していたホブゴブリンをただの一撃で倒したナイにアルは衝撃を覚え、自分の息子がここまで強くなっていたのかと動揺を隠せない。



(そんな馬鹿な……今日のあいつはまだ1匹も魔物を倒していないんだぞ!?という事はレベル1でホブゴブリンを倒したのか……!?)



現在のナイは2年前の時とは違い、まだ魔物を倒していないのでレベルも上がっていないはずだった。それにも関わらずにナイはレベル1の状態で一撃でホブゴブリンを倒した事にアルは信じられなかった。


ゴブリンの上位種であるホブゴブリンは決して弱い魔物ではない、場合によっては大人の冒険者だろうと手こずる相手である。だが、そんなホブゴブリンをナイはレベル1の状態で倒した。こんな芸当を出来る人間は彼以外にはおらず、アルにだってそんな真似は出来ない。



(はっ……何が呪われた子だ!!これの何処が呪われている!?うちのガキは紛れもなく、英雄だ!!)



かつては「忌み子」と呼ばれたナイがホブゴブリンを一撃で倒した姿にアルは歓喜し、同時に彼は現実へと意識が引き戻される。喜んでばかりではいられず、今はナイの足手まといにならないように彼も自分の前に立つホブゴブリンに視線を向けた。



「おい、何処を見てやがる!!」

「グギャッ……!?」



アルは仲間が殺されて呆けているホブゴブリンに声をかけると、その声に反応してホブゴブリンが顔を向けた。しかし、それこそがアルの狙いであり、彼は特製のボーガンを構えるとホブゴブリンに向けて撃ち込む。



「くたばりやがれっ!!」

「アガァッ!?」

「グギィイッ!?」



ホブゴブリンの開け放たれた口元に目掛けてアルは容赦なくボーガンを撃ち込むと、矢はホブゴブリンの口から入り、後頭部を貫き、最終的にはホブゴブリンの後ろに存在した樹木へと突き刺さる。


義足となったアルが作り出した特注のボーガンであり、その威力は絶大だった。頭を射抜かれたホブゴブリンは倒れ込み、その様子を見ていた最後の1匹は怯えた表情を浮かべた。



「グ、グギギッ……!!」

「残るはお前さんだけだな……」

「…………」

「ウォンッ!!」



残されたホブゴブリンにナイとアルが視線を向け、ビャクも威嚇するように鳴き声を上げる。それに対して最後に生き残ったホブゴブリンは後退るが、ここで予想外の出来事が発生した。



「ぼ、僕だって……負けてられるか!!」

「なっ!?馬鹿野郎、近づくな!!」

「ゴマン!?危険だよ!!」



この時に大盾を装備していたゴマンがホブゴブリンの元へ駆け出し、それを見たアルとナイは咄嗟に止めようとした。だが、ゴマンは他の二人がホブゴブリンを倒したのを見て自分も役に立ちたいと思い、彼は特攻を仕掛けた。



「うおおおっ!!」

「グギィッ!?」



大盾で身を隠しながら突っ込んできたゴマンに大してホブゴブリンは反射的に身を防ごうとするが、この時に思いもよらぬ事態が発生した。


大盾とホブゴブリンの身体が接触した瞬間、大盾から衝撃波のような物が発生し、ホブゴブリンの身体が派手に吹き飛ぶ。その光景を見ていたナイ達は驚き、ゴマンは派手にしりもちを着く。



「グギャアアアッ!?」

「あだぁっ!?」



ホブゴブリンは後方へ派手に吹き飛び、そして樹木に衝突して血反吐を吐く。相当な衝撃で叩き込まれたホブゴブリンは意識を失ったのか倒れ込み、身体を痙攣させながら起き上がる様子はなかった。

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