第64話 ビャクの住処探し
――ビャクの怪我が完治した日の翌日、彼のために新しい住処を探すため、ナイ達は深淵の森へと向かう。この場所は狩猟の際もよく訪れている場所だが、最近は魔物も増え始めており、特に魔獣が多い。
この森の中に存在する滝の裏にアルが昔発見した洞窟が存在し、その中ならばビャクが安全に暮らせる可能性があった。道案内はアルが行い、彼とは別に同行者が1人加わっていた。
「はあっ……はあっ……ま、まだ着かないのか?」
「たくっ、遅いぞ悪ガキっ!!お前は太り過ぎなんだよ、もうちょっと痩せろ!!」
「ゴマン、大丈夫?少し休憩しようか?」
「クゥ〜ンッ?」
ナイ達の後に武装したゴマンの姿もあり、彼はナイ達が狩猟に出向くと聞いて付いてきた。将来は冒険者を目指しているゴマンは魔物と戦う技術を身に付けるため、村の人間の中では魔物と戦う機会が多いアルとナイに付いて彼等がどのように魔物と戦うのか学ぶために同行する事があった。
しかし、ゴマンは森の中を移動する事に慣れておらず、まだ目的地にも辿り着いていないのにへばってしまう。そんな彼を見てアルは呆れ、片足が義足である彼の方が移動するのが困難なはずなのに自分よりも先に疲れ果てたゴマンを見て叱りつける。
「たくっ、この調子だと目的地に辿り着くころには日が暮れちまうぞ。さっさと付いて来い!!」
「そ、そう言われても……もう足が、動かないんだよ!!」
「喋れる元気があるなら足を動かせ!!こんな時に魔物に襲われたらどうするつもりだ!?」
「ううっ……わ、分かったよ」
昔のゴマンなら屁理屈をこねて居座っていたかもしれないが、彼も流石にこの森の危険性を理解しており、汗を流しながらもナイ達の後に続く。
ゴマンが自分のいう事を聞いた事にアルは意外に思い、子供の頃の彼ならばアルの言う事など碌に聞きもせずに言い返していた所だろう。ただの悪ガキだと思い込んでいたがゴマンも2年前と比べて成長しているのかと考えた時、ここで歩いていたビャクが唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「ビャク?どうしたの?」
「何かに気付いたのか?まさか魔物か?」
「ま、魔物!?」
ビャクの反応を見てアルとナイは魔物が現れたのかと武器を構えると、慌ててゴマンも背中に背負っていた「盾」を取り出す。彼が持っている盾は普通の盾ではなく、直径は1メートルを越える大きな円盤型の盾だった。
どうして武器ではなく、防具を持ち込んできたかというとゴマンが装備している大盾は彼の家に伝わる家宝らしく、ゴマンの先祖は実は国に仕える騎士だったという。この盾は先祖が使用していた盾らしく、特殊な金属で構成されていてナイの旋斧にも負けない頑丈な盾である。
「おい、悪ガキ。俺とナイの邪魔をするなよ、お前は大人しくその盾で自分を守っとけ」
「ば、馬鹿にするなよ!!僕だって魔物とは何度も戦ってるんだ!!なあ、ナイ!?」
「うん、ゴマンは頼りになるよ爺ちゃん」
「どうだかな……」
アルの言葉を聞いてゴマンは反論し、すぐにナイに同意を求める。そんな彼に対してナイは頷き、実際にゴマンも魔物との戦闘はアルやナイほどではないが経験はしていた。
村に襲ってきた魔物を撃退する時や、村人の食料確保のために外に出向く事も増えてきたため、最近では村人も魔物と戦う機会も多かった。村の大人達は魔物から守るために自主的に訓練を行い、その中でもゴマンは大人に混じって訓練に励み、実際に魔物との戦闘も積んでいた。
「爺さんの方こそ足が悪いんだから無理すんなよ、ここは僕とナイに任せろ!!」
「はっ、随分と大きな口を叩くようになったな!!お前、前にゴブリンと戦った時に漏らしたんだろ!?」
「な、何でその事を!?」
「二人とも、こんな時に喧嘩している場合じゃないよ!!」
「ウォオンッ!!」
こんな状況でも言い争いを始めるゴマンとアルにナイは注意すると、その直後にビャクが鳴き声を上げた。すると木々を潜り抜けて現れる影が存在し、それを見たナイ達は驚く。
「グギィッ……!!」
「グギギッ!!」
「ホブゴブリン、だと!?」
「そんなっ!?ど、どうしてこんな場所に!?」
「くっ……」
「グルルルッ……!!」
ナイ達の前に現れたのゴブリンの上位種のホブゴブリンであり、しかも数は3匹もいた。2年前に村を襲ったホブゴブリンと比べると体格は少し小さく、人間の装備は身に付けていないが、それでも3匹のホブゴブリンと対峙するのはナイにとっては初めてだった。
3匹のホブゴブリンはナイ達を発見すると笑みを浮かべ、即座にナイ達を取り囲むように移動を行う。ナイ達はそれぞれがホブゴブリンと向き合う形となり、ビャクはナイの横へと移動を行い、威嚇を行う。
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