第63話 深淵の森
――ビャクを連れて帰ってきたナイに対して村の人間達は非常に驚いたが、彼がこのままビャクを村の中で飼いたいと言い出した時は更に驚かれた。魔物を村の中で飼育するなど危険過ぎるのではないかと思われたが、村の英雄でもあるナイの頼みとなると流石に村人達も無下には出来ない。
集会が行われて村人達は話し合い、とりあえずは怪我が治るまでの期間はビャクをこの村に留める事だけは許してくれた。少し前に狼型の魔獣(こちらもビャクだが)が村の中に侵入してきた件もあり、以前よりも魔物に対する警戒心が高まっていた。
ナイとしてはビャクを村の中で育てたいと思っていたが、最近は魔物による被害もましてきたため、村人達も魔物に対する警戒心が強くなっていた。そのためにナイも村人達の気持ちも分かるため、残念ながらビャクを村に置く事は出来なかった。
「よし、これでもう大丈夫だろう……流石は白狼種だな、怪我の治りも早い」
「クゥ〜ンッ」
「良かった……」
アルがビャクの怪我の具合を確認し、包帯を巻く。これで治療は終了し、後は怪我が治るまで安静にしていれば問題はなかった。
ビャクの怪我の方は幸いにも命にかかわるほどの重傷ではなく、魔獣は普通の動物よりも回復力が高いため、大人しく休んでいれば怪我もすぐに治るはずだった。ナイは治療を終えたビャクの頭を撫でると、今日の出来事をアルに報告する。
「爺ちゃん、実は今日は麓の方でオークに襲われたんだ」
「何だと!?麓という事は村の近くか?」
「うん、どうにか追い返す事は出来たんだけど……」
「そうか……それにしてもどうなってやがるんだ。最近は魔物の数が異常なまでに増えてきたな」
数年前まではこの地方ではゴブリンもオークも滅多に見かけなかったが、最近では普通の動物よりも魔物を見かける事が多くなっていた。白狼種のビャクも本来はこの地方に生息しない魔獣のはずであり、最近は特に魔物が増殖している傾向があった。
「いったいどうなってやがる……いや、それよりも問題なのはこいつだな。怪我が治ればこいつは村に置くわけにはいかないからな。ナイ、どうするつもりだ?」
「う〜んっ……」
「キュ〜ンッ……キュ〜ンッ……」
ナイの傍から離れるのを嫌がるようにビャクは擦り寄り、その様子を見てナイはどうにか村で飼える方法はないのかを考えた。そもそも子供であるビャクが危険な魔物が救う山の中で生き抜くのも難しく、このまま村の外に逃がせば他の魔物に殺される可能性もある。
出来る事ならば村の中で飼いたいが、魔物に怯える村人がビャクを受け入れるのは難しい。ならば別の場所でビャクを飼育するしかないが、生憎と外の世界は魔物が増え続けているため、安全にビャクが暮らせる場所などナイには心当たりがない。
「爺ちゃん、村の外で安全な場所はないかな?」
「安全な場所と言われてもな……ああ、いや。そういえばあそこがあったな」
「えっ!?心当たりがあるの!?」
「心当たりというか、前に一度だけそんな場所を見かけたことがあるな……ナイ、お前は森の中にある滝を見た事があるか?」
「森って……ああ、そういえばあったね」
ナイが暮らす村は山の麓の方に存在するが、南側の方には森が存在し、村人達の間では「深淵の森」と呼ばれている。この森は広大で何処まで続いているのかは分からず、狩猟の際にアルとナイも何度も訪れた場所だが、森を少し進んだ場所に大きな滝があった。
「実はあの滝の裏の方は洞窟があるんだ。かなり奥まで続いていてな、普通の人間でも暮らせるほどの広さはあるな」
「滝の裏か……」
「あそこならその狼ぐらいなら暮らすには十分な場所だろう。狩猟の途中で立ち寄って面倒を見てやったらどうだ?」
「ウォンッ?」
「そうだね……よし、なら怪我が治ったらお前の住処を作ってやるからな」
「ワフッ!!」
ナイの言葉にビャクは嬉しそうに鳴き声を上げ、その様子を見てナイは安心する。だが、アルの方は何か考え込むように腕を組み、彼は自分の義足に視線を向けて呟く。
「俺もそろそろ自分一人で動けるようにならないとな……よし、道案内も兼ねて明日は一緒に外に出るか」
「えっ!?でも爺ちゃん、魔物に見つかったら……」
「大丈夫だ、実はお前に面倒ばかりかけないように新しい武器も用意したからな」
「武器?」
「おう、こいつだ!!」
アルは机の上に置いていた道具を取り出し、それをナイとビャクに見せつける。彼が用意したのは特大のボーガンであり、鋼鉄製の矢が装填されていた。
どうやらナイの装備を作る合間にこんな物まで用意していたらしく、彼もナイにばかりに迷惑を掛けない様に色々と作っていたらしい。アルはボーガンを持ち上げてナイとビャクに笑みを浮かべる。
「こいつを使えばボアだろうと一発で仕留める事が出来る。いつもお前にばかり迷惑をかけさせるわけにはいかないからな」
「そんな……別に迷惑だなんて思ってないよ」
「まあ、俺も久々に狩猟をやりたくなっただけだ。おい、ビャク!!お前もしっかりと手伝うんだぞ!!そうすれば美味い飯を食わせてやる!!」
「ウォンッ!!」
ビャクはアルの言葉に頷き、そんな彼にアルは頭をなでてやると、その様子を見ていたナイは少し不安に思う。アルの気持ちは嬉しいが、それでも片足が不自由になったアルが狩猟を行う事に不安を覚えた――
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