第47話 戦え
「グギィッ!!」
『ギギィッ!!』
ホブゴブリンが鳴き声を上げると、松明を掲げていたゴブリン達が前に出た。彼等は松明を構えると、村を取り囲む柵に向けて放り込む。
投げ込まれた松明が柵に放たれると、今度は見張り台だけではなく柵の方にも炎が広がり、その様子を見ていた村人たちは悲鳴を上げる。
「ひ、火だ!!奴等、火を使うぞ!!」
「そんな馬鹿な!?なら、見張り台が急に燃え出したのはこいつらのせいか!?」
「魔物が火を使うなんて……ひいっ!?」
柵の方も火が回った事で村人たちは混乱は最高潮に達し、冷静に対処する事が出来なかった。その様子を見たホブゴブリンは笑みを浮かべ、ゴブリン達に指示を出す。
「グギィッ!!」
『ギギィイイイッ!!』
ホブゴブリンの号令の元、遂にゴブリンの群れが村に目掛けて殺到する。その光景を見ていた村人たちは怖気づき、火事の影響で彼等は冷静な判断力を失っていた。
「や、やばい!!こっちに来るぞ!!」
「もう駄目だ、逃げろ!!逃げるんだ!!」
「馬鹿!!逃げてどうする!?戦うんだよ!!」
「嫌だ、あんなの勝てるわけがないだろうが!!」
村人の半数は迫りくるゴブリンに怯え、もう半分は村を守るために戦おうとするが、明らかに怯えきっていた。その様子を見たゴブリン達は武器を掲げて突っ込む。
「ギィイッ!!」
「ひいいっ!?」
先頭を走っていたゴブリンが腰を抜かして倒れていた男の元へ向かい、棍棒を振りかざす。もう駄目かと思われた時、ここでナイは飛び出すと背中に抱えていた旋斧を振り払う。
「だああっ!!」
「ギィアッ!?」
「えっ!?」
ナイが旋斧を振り払うと、それを目撃したゴブリンは慌てて後ろへ跳んで回避する。結果的には襲われていた男は助けられる形になったが、まさか自分が助けた相手がナイだと知って驚きを隠せない。
他の村人たちも唐突に現れたナイに驚き、しかも彼の姿を見て戸惑う。現在のナイは見た事もない形をした剣を扱い、更にいつもと雰囲気が違った。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
「ナイ、どうしてお前がここに!?」
「子供がこんな場所で何をしてるんだ!!」
「待てよ、あの武器って……確か、アルの奴が昔使ってた剣じゃないか?」
旋斧を手にしたナイを見て村人たちは戸惑いを隠せず、彼が所持している武器がアルの物だと知る。彼等は昔にアルが旋斧を利用している場面を見た事があり、この旋斧がどれほどの代物なのかはよく知っていた。
旋斧は村の村一番の怪力のアルしか扱う事は出来ず、彼以外の人間には扱えない武器だと思われていた。しかし、子供であるはずのナイがアルの旋斧を手にした姿に彼等は信じられない表情を浮かべる。
「あの剣、本当にアルのなのか?」
「間違いないぞ、俺は前に直に見せて貰った事があるんだ!!」
「あんな変な形をした武器を見間違うはずがねえ……でも、どうしてナイがそれを持てるんだ!?」
ナイは村の中では非力な子供として認識されており、本来であれば旋斧のような重量のある武器をアルが扱えるはずがない。実際に村の大人達の中にはアルに頼んで旋斧を持ち上げようとした者もいたが、結局は誰一人として成功しなかった。
村の大人達でも誰一人として持ち上げる事が出来なかった旋斧を現在はナイが手にしており、彼はゴブリンに対して旋斧を構えると、冷静に様子を伺う。
(焦ったら駄目だ、狩りの時と一緒だ……落ち着いて戦わないと殺される)
これまでの狩猟の経験を思い返し、決してナイは焦ってはならないと自分に言い付け、改めてゴブリンの集団と向かい合う。その一方でホブゴブリンは唐突に現れた人間の子供に疑問を抱く。
「グギィッ……!?」
「お前が……頭か」
ホブゴブリンを見たナイは旋斧を構え、冷や汗を流しながらも向かい合う。その一方でホブゴブリンの方もナイを見て警戒心を抱いたように様子を伺う。だが、ここで先ほど村人を襲う際に邪魔をされたゴブリンがナイへと襲い掛かった。
「ギギィッ!!」
「グギィッ!?」
自分の命令も無しに勝手に攻撃を仕掛けようとするゴブリンに気付き、咄嗟にホブゴブリンは止めるように指示を出そうとした。しかし、既にゴブリンはナイに向けて棍棒を振りかざしており、それに対してナイは目つきを鋭くさせて旋斧を振りかざす。
「やああっ!!」
「ギィアアアッ!?」
ゴブリンの悲鳴が響き渡り、地面に血が染まる。ゴブリンが仕掛けてて来た瞬間にナイの「迎撃」の技能が発動し、身体が反撃行動に移った。振り払われた旋斧がゴブリンの放った棍棒ごと切り裂き、肉体が上半身と下半身の真っ二つに切り裂かれた。
その光景を目にしたホブゴブリンも他のゴブリンも、そして村の大人達も信じられない表情を浮かべた。ナイがゴブリンの胴体を真っ二つに切り裂いた。その事実に彼等は理解が追いつかず、一方でゴブリンを切り伏せたナイは旋斧を見て頷く。刃はゴブリンを切り裂いても刃毀れ一つもなく、これならば全力で戦っても問題ない事を悟る。
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