第46話 襲撃
「――行こう」
全ての準備を整えたナイは倉庫から抜き出すと、今夜が満月である事に気付く。月の光のお陰で灯りがなくても周囲の光景は明るく、これならば山に入る前なら灯り無しでも移動が出来そうだった。
旋斧を掲げ、持っていける薬は全て身に付けたナイはゴブリンが帰ったであろう山へ向かうべく、まずは村を取り囲む柵をどの様に潜り抜けるのかを考える。以前にナイが村の外に出向く時に使用した子供が通れる程の隙間はもう残っていない。
魔物の襲来に備えて昼間の内に柵の点検は行われ、ナイが利用していた隙間も塞がれてしまった。そのため、外に抜け出す方法を考えなければならない。
(村の皆に見つかると止められるだろうし、どうにか村の外を抜ける方法を探さないと……となると、あの技能が役立つかな)
ナイは自分が覚えた技能の中で村を警備する大人達に見つからず、外へ突破する方法を考える。最後にナイは家の方へと振り返り、心の準備を整えると行動を開始しようとした。
(よし、そろそろ……何だ!?)
家から離れようとした瞬間、唐突に村の中に警鐘が鳴り響く。何事かとナイは音の鳴る方向に視線を向けると、そこには村の出入口の方から煙が上がっており、すぐにナイは火事が発生している事を知る。
(火事!?こんな時に!?いや、まさか……)
村の出入口の方から火の手が上がっている事に気付いたナイは嫌な予感を覚え、急いで出入口の方へ駆け出す。まさかとは思うが、もしもナイの予想が的中していた場合、事態は最悪な方向へ向かっている。
村の中に響く警鐘は鳴りやまず、建物の中で眠っていた人間達も何事かと外に飛び出す。そして村の出入口の方で発生した火災に気付き、混乱に陥った。
「な、なんじゃ!?何事じゃ!?」
「魔物が攻めてきたのか!?」
「あれを見ろ!!火事だ!!火事が起きてるぞ!!」
「ひいいっ!?」
「皆、落ち着け!!村長の屋敷に避難するぞ!!」
子供や老人を除いた村の男達は見張りを行っており、建物の中には女子供か老人しか残っていない。彼等は事前に警鐘が鳴らされた時は村長の屋敷に避難するように言いつけられていた。
(皆、早く逃げて……僕も急がないと!!)
避難する村人たちを掻い潜りながらナイは村の出入口に向けて駆け出し、その様子を他の人間は驚いた様子で見つめる。何しろ小さな子供が背中に大層な剣を背負って走れば目立つのは当然であり、しかもその相手が村の中では一番身体が弱いと思われているナイなのだから驚くのも無理はない。
「お、おい!?お前、ナイだろ!?こんな時に何をしてるんだ!!」
「そっちは危ないぞ!!戻ってこい!!」
「殺されるぞ!?」
「っ……!!」
村人たちは走り去るナイを止めようとしたが、それを振り切ってナイは村の出入口の方へ向けて駆け出す。少し前と比べてナイの肉体は鍛え上げられており、しかも現在は複数の技能を身に付けている。そんな彼を村人たちは止める事は出来ず、遂にナイは村の出入口へと辿り着く。
どうやら火事が起きていたのは村を守るために設置されていた見張り台らしく、炎が燃え盛っていた。いったい何が起きたのかとナイは戸惑うが、大人達は必死に桶に水を汲んで鎮火しようとしていた。
「くそ、全然消えないぞ!?」
「もっと早く水を汲んで来いよ!!」
「畜生、何でこんな事に……いったい誰が火を付けやがった!!」
見張り台の前には大勢の村の男達が集まり、火を消そうと近くの井戸から水をくみ上げていた。だが、火の勢いは止まらず、見張り台は遂に焼け崩れてしまう。
「た、倒れるぞ!?逃げろ!!」
「うわぁっ!?」
「ひいいっ!!」
「くぅっ!?」
燃え盛る見張り台は遂に崩れ落ちると、男達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ去る。ナイも巻き込まれないように離れると、やがて見張り台は地面に倒れ込んで崩れてしまう。
焼け崩れた見張り台を見て誰もが顔色を青くさせ、幸いにも巻き込まれた人間はいなかったが、村の守備の要となる見張り台が崩れてしまった。これではもう外を見張る事もままならず、更に村の外から魔物の声が響く。
――ギギィイイイッ!!
村の外から多数のゴブリンの鳴き声が響き渡り、全員が視線を向けると草原から松明を掲げたゴブリンの群れが出現した。その数は30匹は存在し、更に先頭を歩くのは人間の防具を身に付けたホブゴブリンの姿だった。
「グギィイイッ!!」
『ギィアッ!!ギィアッ!!』
まるで軍隊の行進のようにホブゴブリンが号令を行うと、それに反応するようにゴブリン達は松明を掲げ、その様子を見ていた大人達は恐怖を抱く。その一方でナイの方も顔色を青くさせ、まさかこれほどの規模のゴブリンが攻めてくるなど思わなかった。
山の中でゴブリンの群れと遭遇した時は数が多くても10匹にも満たなかったが、ホブゴブリンの場合は30匹近くのゴブリンを従えていた。更に松明を掲げている姿を見る限り、ゴブリンは火を恐れない事も判明し、それどころ人間のように利用する知恵もある事が発覚した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます