第45話 習得「腕力強化」「怪力」

「うん、ちゃんと覚えている……腕力強化と怪力」



ステータス画面の技能の項目に「腕力強化」と「怪力」が追加されている事をナイは確認すると、彼は倉庫に収められている「旋斧」に視線を向けた。


緊張した面持ちでナイはアルの家に伝わる家宝に歩み寄ると、腕を震わせながらも手を伸ばす。そして意を決したように両手で掴み取ると、旋斧を持ち上げようとした。



「せぇのっ……うわっ!?」



技能を習得する前は持ち上げる所か動かすことも出来なかった旋斧だが、ナイが力を込めた途端に浮き上がり、遂には両手で持ち上げる事に成功した。ナイは自分の手で掴み上げた旋斧に視線を向け、呆然とする。



(重い……でも、これなら持ち上げられる)



腕力強化と怪力によって現在のナイの身体能力は強化されたらしく、今の彼ならばアルに匹敵する腕力もあるかもしれない。ナイは旋斧を試しに何度か振り回し、これならば武器として使用しても問題ない事を確認した。



(うん、これならぎりぎり持っていけるかもしれない……この武器ならきっと、ホブゴブリンとも戦える)



ナイが身に付けている短剣と比べても旋斧は頑丈で重量もあり、これを上手く使いこなせればホブゴブリンの鉄の様に硬い肉体にも通じると確信を抱く。


旋斧を武器として持っていく事はナイも最初から決めており、彼は旋斧を背負い込むと、あまりの重さに少しだけ体勢を崩しそうになる。



「おっとっと……ふうっ、歩く時は気を付けないとな」



まだ旋斧の重さに慣れないが、短剣以上に頼りとなる武器を持ち込めるのは安心感を抱き、この武器でアルを追い詰めたホブゴブリンを倒すとナイは誓う。


薬と武器の準備を整えたナイは一角兎の角から作り出した滋養強壮の効果がある丸薬を取り出し、倉庫の窓から照らす月の光を確認する。もう間もなく出発しなければならず、それまでの間にナイは心を落ち着かせる。



(もしかしたら殺されるかもしれない……でも、僕のせいでこうなったんだ。なら、僕が何とかしないと)



ナイは自分がゴブリンを引き寄せてしまったと思い込み、なんとしてもこの村と養父を守るために戦う事を誓う。もう誰にも迷惑を掛けたくはなく、ナイはアルとドルトンが休んでいる自分の家に最後に立ち寄ろうかと考えた。



(もしも死んじゃったら、もう爺ちゃんとも会えなくなる……今の内に顔を見ておこうかな)



倉庫から出て行こうとしたナイだが、扉の前で足を止めた。そして弱気になりそうな自分を戒めるように頬を叩く。



(いいや、駄目だ!!爺ちゃんの顔を見たら、きっと残りたくなる……必ず生きて帰るんだ!!そして爺ちゃんに思い切り怒って貰う……その時にいっぱい謝ろう)



アルの顔を見れば決心が鈍ると判断したナイは考えを改め直すと、彼は時間が訪れるまでの間、倉庫の中で心を落ち着かせるために休む――






――同時刻、村の大人達は一睡もせずに警備を固めていた。いつ魔物が襲ってくるのかも分からず、今日は夜通し警備を行うつもりだった。


だが、予想に反して夜更けを迎えても魔物が現れる様子はなく、大人達も警戒していたにも関わらず、魔物が現れる様子がない事から警戒心が緩み始める。



「ふああっ……眠いな」

「はあっ、何時までこんな事を続けるつもりだ?」

「本当に魔物なんてくるのか?少し、考え過ぎじゃないのか?」



深夜を迎えたせいで流石に村人たちも眠気が最高潮に達し、殆どの人間が眠気に襲われていた。中には本当に魔物が訪れるのか怪しむ者も存在し、こんな事をして何か意味があるのかと疑問を抱く。



「駄目だ、もう起きてられねえ……少し休ませてもらうわ」

「待てよ、交替の時間はまだだぞ!!」

「いや、本当に無理……少し眠らせてくれよ」

「たく、仕方ねえな……といっても、俺もそろそろ限界だな」



一向に魔物が現れる様子もなく、村人たちの警戒心が徐々に薄れていき、遂には見張りの際中に眠り始める者も現れた。これがもしも街を守る警備兵などであれば厳罰だが、生憎と見張りをする事になれていない村人たちは冷静に対処できない。


だが、そんな村人たちの様子を伺う存在が潜んでおり、闇夜に紛れながら村人たちを観察するゴブリンが存在した。全身に泥を塗りつけ、地面に伏せながら目立たないように行動を行う。



「ギギィッ……」



村人たちの警戒心が薄れている事に気付いたゴブリンは笑みを浮かべ、その場を早急に立ち去り、自分の仲間達が隠れている山へと向かう――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る