第48話 村人の困惑
「えっ……な、何だ?何が起きたんだ?」
「あ、あのナイが……魔物を倒した!?」
「そんな馬鹿な、あんな子供が魔物を倒せるはずが……」
ゴブリンを切り裂いたナイの姿を見て困惑しているのは魔物達だけではなく、村人たちも信じられない気持ちだった。村人の間でもナイは身体が弱く、いつも家に引きこもっているかアルの後を付いていく小さな子供だと思われていた。
最近はアルと狩猟に出向く事も多かったが、彼等はナイが数か月前とは比べ物にならないほどに成長している事を知らない。しかも彼が身に付けているのはアル以外に扱う事が出来ないと思われていた「旋斧」である。
非力で病弱な子供だと思われていたナイが村の大人でも扱えない武器を軽々と振り回している光景を見て、彼等は本当に自分達の前に現れたのがあのナイなのかと疑う。
「ふうっ……まずは1匹」
旋斧を握りしめたナイはホブゴブリンに視線を向け、刃を向けた。その行為自体には特に意識したわけではないが、自分に対して刃を構えたナイに対してホブゴブリンは警戒心を抱き、ゴブリン達に命令を下す。
「グギィッ!!」
『ギギィッ!!』
「や、やばい!!また来たぞ!!」
「ナイ、早く下がれ!!いくらなんでも無理だ!!」
今度は数匹のゴブリンがナイの元に駆けつけ、その様子を見ていた村人たちは流石に今度はまずいと思い、ナイに避難する様に促す。だが、それに対してナイは落ち着いて冷静に身構える。
(大丈夫、これぐらいの数ならまだ戦える……)
迫りくるゴブリン達に対してナイは逃げる素振りすら見せず、横向きに旋斧を構えると、それに対してゴブリン達は警戒したようにナイを取り囲む。
ゴブリン達に取り囲まれたナイを見て村人たちはもう駄目かと思ったが、ナイは囲まれようと取り乱さず、それどころか意識を集中させるように旋斧を握りしめる。やがてしびれを切らしたゴブリンの一体が棍棒を振りかざす。
「ギギィッ!!」
「……そこっ!!」
背後から仕掛けてきたゴブリンに対してナイは振り返りもせずに手にしていた旋斧を放ち、切り裂くのではなく、刃の腹の部分で吹き飛ばす。
「だああっ!!」
「ギャアッ!?」
「ギャウッ!?」
切るのではなく、殴りつけられたゴブリンは別の場所で待機していたゴブリンに衝突し、地面に倒れ込む。他のゴブリンはその姿を見て驚き、確実に死角から攻撃したにも関わらずにナイが反応した事に驚く。
ナイの「迎撃」の技能が反撃を行える距離内の敵ならば自動で発動し、敵を打ち倒せる。仮に死角からの攻撃であろうと反撃可能な状態ならばナイは迅速に反撃行動に移れた。
「ギギィッ!?」
「ギィアッ!?」
「グギギッ……グギィッ!!」
仲間二人が倒れた光景を見て他にナイを取り囲んでいたゴブリン達は取り乱すが、それを見ていたホブゴブリンが叱りつける様に鳴き声を叫ぶ。
群れの頭の命令に慌ててゴブリン達は気を取り直したように身構えるが、それを確認したナイはやはりホブゴブリンこそがゴブリン達の親玉だと確信する。
(やっぱり、あのでかいゴブリンが頭なんだ……なら、あの魔物を倒せば他のゴブリンは怯えて逃げ出すかもしれない)
ホブゴブリンが先ほどからゴブリン達に命令を下す姿を見てナイは標的を定め、このホブゴブリンを倒せば群れを統率する存在はいなくなり、ゴブリン達は逃走を開始すると確信を抱く。
ゴブリンは魔物の中でも知能が高く、勝てない相手だと判断すると逃げ出す習性がある。しかし、いくらゴブリンを倒そうと群れの頭であるホブゴブリンが存在する限りはゴブリン達は頭を恐れて逃げようとはしないだろう。
(あのホブゴブリンを倒す事が出来れば……となると、近づくしかない!!)
ゴブリンに囲まれた状態ながらもナイはホブゴブリンを狙いに定め、自分から近づくしかないと判断した。しかし、ホブゴブリンの元まで行くにはゴブリン達が邪魔であるため、最初にゴブリン達を何とかしなければならない。
(一瞬でもゴブリン達の注意を引けたら……となると、やっぱりあれしかないか)
ナイは旋斧を地面に突き刺すと、懐に手を伸ばす。その様子を見てナイが何か仕出かすつもりだと判断したホブゴブリンは慌ててゴブリンに命令を下す。
「グギィッ!!」
『ギィアアアッ!!』
「や、やばい!!一気に来たぞ!?」
「逃げるんだ、ナイ!!」
ホブゴブリンはの鳴き声に呼応するかのように全てのゴブリンがナイに向けて駆け出し、その様子を見ていた村人たちはナイが殺されると思った。だが、ナイは迫りくるゴブリンの集団に対して懐から取り出した小壺を構えた。
小壺の中身は以前にも目眩ましに利用した薬草の粉末が入っており、蓋を開けたナイは迫りくるゴブリン達に対して壺の中身を放つ。
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