第39話 集会
――傷の治療も追え、他の魔物に見つかる前にナイは山を下りた。家に戻る際にアルにどのように言い訳しようかと考えていたが、帰ってきたときにはアルの姿は見えなかった。
「あれ、爺ちゃん……?」
家の中を探してもアルの姿は見当たらず、代わりに机の上には書置きが残っていた。その内容を確認したナイは村の集会があるため、今日は遅くなるという旨が記されていた。
「なんだ集会か、久しぶりだな……何かあったのかな」
村の大人同士が集まる事は滅多になく、何事か問題が起きたのかと思いながらもナイはアルが家にいない事に安堵した。話し合いが遅くなるのならば治療に専念できる。
アルがいない間にナイは身体を洗い、ついでに両腕の治療をやり直す。山にいた時は応急処置程度の治療しか出来なかったが、家に戻ればちゃんとした薬もある。
「……あれ?もう痛くないや、もう治ったのかな?」
しかし、治療を開始しようとした時にナイは両腕の痛みが引いている事に気付き、痛み止めの効果はもう切れているはずだが両腕はもう普通に動かす事が出来た。
「本当に治ってる……まさか、薬草のお陰か?」
採取の技能によってナイが入手した素材は良質な物へと変化するが、そのお陰なのか採取した薬草も普通の薬草よりも回復効果が高い素材に変化したらしい。お陰で普通ならば治すのに一晩はかかる怪我も1時間程度で回復した。
(採取の技能……もしかして、一番凄いかも)
折れた腕が薬草を塗りつけただけで1時間程度で完治した事にナイは驚き、普通の薬草ではこうも早く治らない。改めて技能の凄さを思い知る一方、ナイは折れた短剣を見て頭を悩める。
折角アルから受け取った短剣だが、片方はなくしてもう片方は刃が欠けてしまった。ホブゴブリンの頑丈な身体と経験石を破壊する際に刃はもう使い物にならず、直すとしたらアルに頼まないといけない。
(僕も鍛冶が出来たら……そうだ、爺ちゃんに教えてもらおうかな)
アルの家に存在する刃物は全てが彼が作り上げた代物であり、彼は若い頃は鍛冶師になるように育てられたため、狩猟に必要な道具は自分で制作している。
ナイはアルが戻ってきたら自分に鍛冶を教えてもらうように頼んでみる事に決めたが、その前に勝手に山に入ってきた事を怒られる事を考えると気が重い。しかし、結局はその日の夜遅くまでナイはアルを待っていたが、彼が戻ってくる事はなかった――
――翌日、目を覚ますとナイは机の上に朝食の準備と、新しい書置きが残っている事に気付く。普段は朝になるとアルが起こして滝割りと水汲みを一緒に行うのだが、今日に限ってアルはナイを起こす事もなく、朝食の準備だけをして出て行ったらしい。
『今日は村の大人たちと一緒にボアを捕縛する罠の準備に向かう。戻ってくるのは明日になるので街に向かう時は見送りにいけなくなった』
「……爺ちゃん、もう罠の準備に向かったのか」
ナイは書置きの内容を見て驚き、同時に非常に焦りを抱く。当初はアルが罠の準備を行うのはもう少し後の事だと思っていたが、どうやらアルは昨日の集会で村人と相談し、ボアを捕縛するための準備に取り掛かったらしい。
まさかこんなにも早くアルが行動に移すとは思わず、ナイは非常に焦りを抱く。アルの役に立つためにナイは彼が狩猟に出かける前に街に赴き、回復薬の調合方法を学ぶつもりだったが、これでは間に合わない。
今日の内に罠の準備を整えるというのであればアルが仕掛けるとすれば明日以降となる。今日の内に商人が街からやってくるため、仮にナイが商人と共に街へ向かうとしても明日には村に戻らなければならなかった。
(薬の調合にどれくらいの時間が掛かるか分からないし、こうなったら回復薬を買って渡すしかない!!でも、どうやって街から戻ればいいんだろう……)
街に行くときは商人の馬車に乗せてもらえばいいが、帰還となると時間が掛かり過ぎる。前の時は馬に乗って移動したが、ナイ一人では馬に乗れないし、そもそも馬を連れていく事も出来ない。
(歩いて帰るにしても草原には魔物も出てくるから武器も必要になるし……)
数か月前と比べても魔物は数を増やしており、草原を乗り物なしで移動するのは危険過ぎた。だが、今日中に街に向かって回復薬を手に入れなければならず、ナイは迷っている暇はない。
(ともかく、今は街へ向かおう。お金になりそうな物は持っていって……武器の方は爺ちゃんのを借りよう)
家の中にはアルが解体の際に利用する短剣の予備がいくつかあり、彼には悪いがナイは勝手に拝借する事にした。後で怒られるかもしれないが、アルのためにもナイはどうしても回復薬を手に入れるため、手段を選べない。
後で彼に怒られる事を承知でナイは新しい短剣を装備すると、これまでに貯めていたお金も用意し、一番高く買い取ってくれそうな薬草を大量に持っていく。念のために薬草を調合して作り出した傷薬が入った小壺も用意すると、街から訪れる商人が来る時間帯を迎え、彼は家を出た。
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