第18話 迎撃の性能
(え、あれって……まさか、ボア!?)
猪型の魔物の名前は「ボア」と呼ばれ、その肉は美味で有名だが、非常に獰猛で危険な存在だとナイはアルから聞かされている。何度かアルも山の中でボアを狩猟した事はあるが、彼によると罠を事前に仕掛けた状態でなければ敵わない相手だという。
基本的には山岳地帯に生息する魔物のため、普段は滅多に山から下りはしない。そんなボアが草原に存在する事にナイは驚き、慌てて引き返そうとした。
(あんなのに見つかったら殺されちゃうよ……)
ボアに姿を見られる前にナイは急いで村へ引き返そうとした時、彼の耳に嫌に聞き覚えのある鳴き声が響く。
「キュイイッ!!」
「うわっ!?」
ナイが振り返るといつの間にか1匹の一角兎が迫っており、跳躍を繰り返してナイとの距離を詰めていた。前回に遭遇した時は障害物が多い森の中だったので振り切れたが、今回は身を守れそうな障害物が周辺には存在しない。
(まずい、追いつかれる!?)
後方から接近してくる一角兎を確認したナイは慌てて距離を取ろうとしたが、単純な移動速度は一角兎が勝り、真っ直ぐにナイの背中に向けて飛び込んできた。
「ギュイイッ!!」
「くっ……このぉっ!!」
背中に目掛けて角を突き刺そうとしてきた一角兎に対し、反射的にナイは腰に差していた短剣を取り出すと、それを手にした状態で飛び掛かってきた一角兎に振り抜く。
一角兎は自ら短剣の刃に突っ込む形となり、空中に血飛沫が舞う。一角兎は自分から突っ込んだ勢いで刃に切り裂かれ、地面に倒れ込む。その様子を見たナイは驚愕の表情を浮かべた。
「えっ……た、倒した?」
自分の手元には血にまみれた刃の短剣が握りしめられ、改めてナイは倒れ込んだ一角兎に視線を向けた。一角兎は完全に事切れており、ただの一撃でナイは前回はあれほど苦戦した相手を倒した事になる。
「す、凄い……流石は爺ちゃんが作った短剣だ」
アルが解体用に使用する短剣の切れ味は並の刃物よりも鋭く、更に一角兎が攻撃を仕掛けた際にナイが「迎撃」の技能を発動させた事により、相手に攻撃する事が出来た。
(これが迎撃の技能の力……凄いや)
ナイは一角兎が攻撃を仕掛けた時に咄嗟に身体が動き、自然と攻撃を仕掛ける事が出来た。これがナイが習得した迎撃の性能だと判明し、改めて技能の凄さを思い知らされる。
倒した一角兎の死体に向け、ナイはどのように対処するべきか悩む。当然だがこのまま持ち帰ればアルに村の外に勝手に出た事を伝えねばならず、彼は外は危険だとあれほど注意していたにも関わらずに外に抜け出したナイを叱りつけるだろう。
(どうしよう、これ……服にも血が付いたし、言い訳出来ないよ)
自分の服にこびり付いた一角兎の血液を見てナイは困り果て、アルが帰ってきたら何と説明するべきかと頭を抱えると、ここで不意に周囲から視線を感じとる。
「キュイッ……」
「ギュイイッ……」
「えっ……!?」
いつの間にか草原に散らばっていた一角兎が自分の方を見ている事にナイは気づき、ここでナイは自分が倒した一角兎に視線を向けた。どうやら一角兎を殺した事で他の仲間に気付かれたらしく、一角兎の群れは明確にナイに敵意を向けていた。
(これ、もしかしてまずい!?)
草原に散らばっていた一角兎の群れが集まり始め、その様子を見てナイは危険を察すると、一も二もなく村の方角へ向けて駆け出す。その瞬間、一角兎の群れはナイの後を追う。
『ギュイイイッ!!』
「ひいっ!?」
仲間を殺されて怒りを抱いた一角兎の群れが追跡を開始し、十数匹の一角兎がナイの後方から迫ってきた。一角兎達はある程度の距離を詰めるとナイに目掛けて額の角で突き殺そうと飛び込む。
「ギュイイッ!!」
「うわっ!?」
一番先頭を走っていた一角兎が飛び込むと、それに対してナイは「迎撃」を無意識に発動させ、振り向きざまに短剣を振り払う。先ほどと同じように一角兎は斬りつけられると血飛沫が舞い上がり、地面に倒れ込む。
「や、やった……また出来た」
「ギュイイッ!?」
「ギュイッ、ギュイッ!!」
仲間が再び切り裂かれたのを見て一角兎の群れは追跡を中断し、その光景を見てナイは短剣を慌てて構える。2体も仲間が敗れた事で一角兎も不用意に飛び込む様子はなく、ゆっくりとナイは後退って距離を取ろうとした。
一角兎の戦い方は迎撃の技能を持つナイにとっては対応しやすい敵であり、相手に向けて飛び込んで角を突き刺す以外の攻撃法を持っていない一角兎は脅威にはなり得ない。どれほど素早い突進を仕掛けようと、事前にナイが動いて短剣を構えれば勝手に一角兎の方が刃に突っ込んで自滅してくれる。
(た、戦える……僕、魔物と戦ってるんだ)
森で一角兎と遭遇したときは訳も分からず、幸運が重なって偶然にも相手を倒す事が出来た。しかし、今回は幸運などに頼らず、ナイは新しく覚えた「迎撃」の技能で一角兎へと立ち向かう。
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