第17話 迎撃の弱点

「く、くそっ……覚えてろよ、今日の事は忘れないからな!!」

「あっ……」



ゴマンは捨て台詞を残すとそのまま逃げ去り、そんな彼を見てナイは右肩を抑えながらも安堵する。幸いにも今回は大きな怪我を負わず、右肩を摩りながらもナイは座り込む。



(はあっ……凄い能力を覚えたと思ったのに)



小石を投げられたときに迎撃が発動しなかった事にナイは落ち込み、とてつもない力を身に付けたと思っていたが、過信してはならない事を改めて思い知る。


迎撃の技能は相手に反撃が出来る距離でなければ発動出来ず、仮に遠距離から攻撃された場合は発動しない事が証明された。だが、弱点を知れた事は悪い事ではない。



(でも、これで迎撃の使い方は分かった。後はこれを上手く利用しないと……)



魔物を倒せばレベルが上がり、SPを得られる。そのSPを利用して新しい技能を覚えるのがナイの当面の目標に定めると、次に魔物と戦えられる日が来ることを待ち望む――






――しかし、一か月の月日が経過しようとナイは魔物と戦う機会はなく、そもそも外に赴く事も少なくなってきた。理由としてはアルがナイを連れて山や森を連れ歩こうとせず、家の中で留守番ばかりを任せられていた。


アルはナイが一角兎を倒した日、彼が折角上昇させたレベルが貧弱の技能でリセット

された事を知り、無暗に危険な場所へ連れ出す事はしなくなった。一応は野草の種類や採取の方法は家でも教えてくれるが、狩猟に赴く際は連れて行かなくなる。


迎撃の技能を身に付けた今の自分ならば一角兎でも倒せると思っていたナイであったが、アルがそもそも狩猟に連れていかなければ魔物と戦う機会もない。これでは新しい技能を覚える事が出来ないナイは家の中で困り果てる。



「ふうっ……爺ちゃん、遅いな」



家で留守番している間はナイの仕事は家の掃除や帰ってくるアルのために食事の準備を行うぐらいしかなく、他に仕事と言えば薪割りぐらいしかない。だが、レベル1のナイの筋力では薪割りも難しく、普段はアルが家にいる時に行っていた。



「はあっ……どうしよう、もうする事なんてないよ」



家の掃除を終えたナイはアルが帰ってくるまで大人しく過ごすしかなく、暇そうに天井を見上げていると、不意にある事を思いつく。



「……そうだ、最近は村の外でも魔物を見かけるようになったんだっけ」



村の外で魔物の姿を見かける事が多くなったとアルから話を聞いたナイは立ち上がり、本来は許可なく村の外に出る事は許されないが、迎撃の効果を試すためにナイは外へ出る事にした。


アルが獲物の解体用のために保管している短剣の1つをナイは取り出すと、それを手にしたナイは緊張した面持ちで村の外に出る事を決意する。



「強くならなきゃ……強くなれば爺ちゃんだってきっと喜んでくれる」



ナイはアルが自分の事を心配している事は重々承知しているが、それでもこのままアルの世話になりっぱなしでは駄目だと思ったナイは短剣を手にして外へ向かう。



(確か、あそこから外に出られたはず……)



村の周囲には木造の柵が取り付けられ、出入口は一つしか存在しない。そこには村の若い男が交代制で見張りを行っており、普通ならば子供のナイは抜け出せない。


だが、実は前にナイはゴマンが他の子供を連れて村の外に抜け出す場面を見た事がある。柵の一部を壊して子供だけが通れるような隙間を作り出し、そこを潜り抜ければ外へ出られるはずだった。



(よし、誰も見ていないな……)



他の人間に気付かれない様にナイは慎重に柵を抜けると、外へ飛び出す。ナイが暮らす村は山の麓の方に存在し、少し移動すると延々と広がる草原が広がっている。



(……そういえば一人で外に出るのは初めてだった)



村の外に出る機会はナイにも何度かあったが、その時は必ず傍にアルが存在した。しかし、今のナイの傍には誰も存在せず、彼を守ってくれる頼れる大人はいない。


外の世界に出た途端にナイは恐怖を抱くが、ここで弱気になるわけにはいかないとナイは頬を軽くはたき、腰に装着した短剣をいつでも抜け出せるように常に握りしめる。



(今は爺ちゃんはいないんだ……でも、僕だってもう戦えるんだ)



自分のみは自分で守るしかなく、ナイは短剣を強く握りしめながら草原の様子を伺う。すると、確かにアルの言う通りに魔物らしき動物の姿が見えた。



(本当に魔物がいる……少し前までは全然見かけなかったのに)



草原にはナイが山で倒した一角兎の姿が見かけられ、他にも遠くの方には猪のような姿をした魔物も見えた。


こちらの方は普通の猪と異なる点は独特な牙の形をしており、まるで槍の刃先のように牙が鋭利に尖り、普通の猪よりも一回りや二回りほど大きい事だ。

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