第39話

あれからベムが来なくなった。代わりに黒スーツが何人か来ているらしい。よしえさんは平和教を脱会。元恋人さんと仲良くなって、骨壺を同じお墓入れたとのこと。


この前あみちゃんに二人であいさつに来たって言ってた。よしえさんの骨壺は元々平和教に保管されていたけど、それをあみちゃんが取り返したんだって。凄くない!?なぜかあみちゃんは記憶にないらしい…。


平和教に骨壺がある限り、長時間あの聖地から離れることが出来なくなっていたらしい。でももう大丈夫。よしえさんと元恋人さんの骨壺はちゃんと結界のあるお寺の墓地に眠っているから。


そこまでは平和教でも関与出来ないって。でも平和教を裏切ったような脱会の仕方だったから…よしえさん大丈夫なのかな。


あと1つ疑問があったんだ。骨壺を取り返すと言っても、どうやって骨壺を持っていくのだろう。あみちゃんが幽体離脱出来ることはこの前わかったけど、骨壺って言わば物質。


物質をどうやって幽体が持っていくことが出来るのか。イメージ的にはお化けが物を掴もうとしてもスカッって、手が通り抜けちゃう感じがする。その疑問にあみちゃんはしっかりと答えてくれた。


どんな物にも「外身」と「中身」があって、例えばお化けが缶ジュースを飲みたいとする。そこにあるのは物質である缶ジュース。それをお化けが掴む。


持ち上げると半透明の缶ジュースが出てくる。これが「中身」


中身をお化けが取り出しても、「外身」である缶ジュースはそのままそこに存在する。


でも中身を取り出されて外身だけになってしまった缶ジュースは、見た目はそのままだけれど風味が多少劣化していたり、なにかしらの不具合が起こるらしい。電化製品であれば壊れるのが早くなったり、ましてはすぐに原因不明の故障を起こしたり。


物質にも命があるってイメージかな?あみちゃんの見えている世界では、外身はただの見せかけで、大事なのは中身なんだって。人間と一緒だな!!


この説明を聞いてやっと納得が出来た。よしえさんの骨壺の中身を持って行ったわけだ。ちなみにあみちゃんはお化けに中身を食べられちゃったものを口にすると、食感だけで無味無臭らしい。かわいそう…。


そして今日は、東京の門前仲町にある成田山の東京別院深川不動尊に来ている。ここは新勝寺の東京の別院で、簡単に言うと新勝寺の東京支部だ。


なんとあみちゃんの長男ほっくんと、次男の幼稚園児たかとくん通称ぷりと君も一緒だ。いつも切羽詰まって新勝寺まで力を貰いに行っていたけど、今日はお出かけ気分で楽しい。


仲見世通りには面白いお店が沢山あり、門前仲町はあさりが有名なんだって!俺たちはあさりラーメンの昼食を済まし、深川不動尊の堂内に入る。


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「脱帽せよ。」


誰かの声が聞こえたあみは自分のことかと思い頭をさわってみるが、自分じゃない。この中で今日帽子を被っているのは…。

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「さめちゃん、帽子脱げだって!」


「うわっ、びっくりした…。このニット帽のこと?」


「そうだと思う、脱げだって。」


俺はそそくさとニット帽を脱いだ。寒いのになぁ。って思ってたけど、のちのち調べて見たら神社仏閣を参拝する時帽子は脱ぐのがマナーだと。神様仏様に敵意はありませんよっていう意味らしい。お寺とか神社とかまったく興味がなかったから知らなかった…。


深川不動尊の護摩炊き会場はなんとも現代的でかっこいい!アリーナがあって、2階席は3段ある。そしてなんと3階席もあるのだ!こんな言い方しちゃうと語弊があるかな?


そして時間は13時。護摩炊きの始まりは太鼓の大きな音で始まる。ぼけーっとしてる人や、初めて護摩炊きに来る様な人はこの太鼓の1発目!これが鳴った瞬間、この大きな音にびっくして、背筋がビクーッ!ってなる。


俺は太鼓が鳴る瞬間、正面を見ないで周りを見ている。小さな趣味だ。今日の収穫は3人か…次はもっと豊作を願う。


「さめちゃんさめちゃん、太鼓が鳴った時ぷりとが「うわっ!」って言ってびっくりしてた。かわいいっ!」


「そうだね!そうだけど、あみちゃん護摩炊き始まってるからもっと静かにして!」


小さな声でそう伝えると、俺に怒られて恥ずかしそうに下を向いている。そしていつも通り紫色の衣装をまとったお坊さんが、護摩木に火を灯した。

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