第38話
ウチが歌舞伎町に到着すると、街が何だかいつもより騒がしい。もしかして可愛くて美しいウチが舞い降りたから?じゃなかった…。あいつだ、あの女だ!あの女にホストが群がってる!
あのバカ女は歌舞伎町を歩いてるだけでホストがどんどん寄って来る。あみちゃーん、この前はありがとー!とか、あみちゃーん!今度店からおごるから遊びに来てよー!とか沢山のイケメンホストに声をかけられて、まるでホストを連れた大名行列状態。
何であいつはあんなにホストにモテるんだ…そこまで可愛くもないし、見た目はウチと同じぐらいの年齢だ。
ウチでさえあんなに男にちやほやされたことないし!そしてウチと同じ名前っつーのがマジで腹立つ!
でも待てよ…あいつの体貰っちゃえば、ウチはあいつになれる。ということは…ホストにモテモテってことだよな!?!?
今思えばあんなことしなきゃよかった…あいつにかかわらなければこんな面倒なことに巻き込まれなくて済んだのに。
ウチはホストにモテモテになるためにあいつの体に一直線に飛び込んだ!!…あいつの体の中は真っ暗だった。暗闇の中にわずかな光と誰かがすすり泣く声が遠くから聞こえる。ウチはとにかく泣き声がする方向へ進んでいった。
そこには小さなランプと毛布。その毛布に包まっているあいつは膝を抱えて下を向き小さく泣いていた。ウチは毛布をはぎ取って正直にこう伝えたんだ。
「ねえ、あんたの体貰っていい?」
あいつは振り向きもせず、下を向いたまま予想外の返事を吐いて来た…。
「いいよ。」
普通いきなり体貰っていいかって聞かれて、なんも考える様子もなく「いいよ」って言わなくね!?気持ち悪っ!!
「な、何でいきなりいいよなんて言えるんだよ!少しは考えろよ!」
「いつ死んでもかまわないと思ってるから。むしろ消えたい…。」
「は?あんなにホストにモテるのに?意味わかんねー。」
「モテてるんじゃないよ、私が生霊消せるから。それが歌舞伎町で有名になっただけ。ホストって生霊憑きやすいでしょ?たまたま出会ったホストに憑いてる生霊消してあげたら、ホストからホストに噂が広がっちゃって。相談に乗ってくれって。それで今日も来てる…。」
「へー、そーゆーこと。お前いい奴じゃん!」
「そんなんじゃないよ…。」
「とにかく死にたいとか言うな。ホストにモテてるんだから。」
「死んでる人に死ぬななんて言われたくないよ…。」
「げ、何でわかるの?」
「何でもわかるよ…。」
なんかこいつ怖っ!ウチは恐怖を感じてこいつの体から飛び出した。こいつにはかかわらないほうがいい…とも思ったけど、なーんであんなにホストにモテるのに死にたいんだ?
究極にあいつの気持ちがわからなかった。でもウチって探求心の塊じゃん?知りたいじゃん!?
一度は飛び出したあいつの体にウチはもう一度飛び込んだ。今度はあいつにバレないように…。
それから何ヶ月経ったんだろう。覚えてねーや。こいつの中は暗くて静かで居心地がとても良い、ウチがこいつに入った最初の目的なんて忘れちまうほど。
ばーさんに寺を抜け出したのがバレて怒られるのも嫌だし丁度良かった。お菓子とかマンガを持ち込んで悠々自適に過ごした。誰にも邪魔されないウチだけの空間!
そしてある日、こいつの中がちょっとだけ明るくなった。
こいつがあの世界一頼りない泣き虫バカ男と出会った時から…。
それからこいつらは変な宗教に追われることになったじゃん!?このバカ女は方向音痴だし、物忘れ激しいし、言いたいこと言えないでモジモジしてるばっかりだし?
バカ男の方は頼りねーしすぐ泣くし!イライラするけど、漫画なんか作られたもの読んでるより、こいつら見てたほうが何倍も楽しいじゃーん!って気づいちゃったわけ!
あの頼りねーバカ男が必死になってこいつのこと守ってんの!こいつもこいつで不器用なりにバカ男のこと守ろうとしてんの。超面白い!!
そんでせっかく少し明るくなったこいつの中が、この前いきなり真っ暗になったからびっくりして。こっそりこいつの様子見に行ってみたら、さめちゃーん、さめちゃーんって叫びながら苦しそうにもがいてんの!
周りを見回してみたら、こいつの近くに変なおっさんが居てよ。多分こいつの体を操ってるわけ!ずっとここに居るウチでさえこいつの体動かしたことないのに!ムカついちゃってさ、後ろからそーっと近づいて思いっきりぶん殴ってやったら、ピューッて飛んで行っちゃった。
んで昨日のあの事件よ。いい加減にしてほしい。自分で解決も出来ないのにわざわざ首突っ込むなっつーの。
でもちょっとずつ二人とも成長してる感じがするし、なんかあのバカ女ほっとけないんだよね…。バカだけど、たぶんこんなにやさしい奴他にはいない気がする。また無茶するかもしれないし、このまま様子見てみるか…。
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