第36話

「おらっ、来いよ??」


あみは腕を組み、余裕な表情を浮かべながらベムを挑発した。


ベムは口から流れている一筋の血を手で拭き取ると、大きく拳を振り抜くが避けられてしまう。


振りかぶった反動で前傾になった体制を戻そうとした時、あみの強烈な膝蹴りがみぞおちにめり込み、一瞬目の前が真っ白になり倒れ込みそうになる。


しかし、すかさずあみがベムの髪の毛を掴み倒れさせてくれない。


「おっさん、喧嘩したことないの?」


そうニヤリと呟くと、あみは右足を大きく上げて体制を仰け反らせると、上げた足を地面に思い切り叩きつけると同時に、勢いを付けて自分の額をベムの額へぶち込む。


2度目の頭突き攻撃を喰らい怯みそうになるが、とっさにベムはあみの手を掴んだ。


「力試しでもしたいってか?いーよ、楽しそーじゃん!」


二人は手と手を掴み合い、手押し相撲対決が始まった。押し負けぬよう二人とも自分の力を最大放出する。オーラとオーラがぶつかり合う。その衝撃波で周りの者は誰も近づけない。


「あれあれ?おっさん。さっきのおばさんの一撃と、こいつの動きを封じるために結構力使っちゃった?パワーMAXのウチに…勝ーてーるーとー思ってんのかあああーーっ!?」


あみのオーラがドンッと2倍に膨れ上がり、ベムのオーラが飲み込まれそうになる。


「覚えていろ、必ず迎えに行く。」


ベムがそう呟くと、シュンと一瞬にして消えて行った…衝撃波がやみ、静寂が訪れる。周りに居た黒スーツと信者たちは蜘蛛の子を散らす様に四方八方へ逃げて行く。


「おい!てめーら、どこ行くんだ待ちやがれ!!」

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あみとベムの対決から2時間後…



康平はスマホの充電が5%なのと時間を確認している。


「もう8時になる。あみちゃんどこ行っちゃったんだろ。ほっくんとモンストやり過ぎてスタミナも無いし、電池もない!!暇だ…。」


動かないあみをじーっと見つめてみる。ほっくんは半分寝かかっている。


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シュンッ!4人が瞬間移動をして康平たちの待つファミレスに降り立った。幸子は自分の骨壺を大事そうに抱えながら一息つくと、あみに語り掛ける。


「あみちゃん…ありがとう。私は平和教を脱会します。色々な人に沢山迷惑を掛けてきたと思う。その償いをさせてもらいたい。これからどうして行けば良いのかまだわからないけど、武志さんがいてくれれば、私は頑張れる気がする。あなたも、許してくれて本当にありがとう。」


「いいんだ、武志さんと本当の幸せを見つけてくれ。」


その言葉を聞いて再び涙を浮かべる幸子。ガリガリジジイと武志は肩を叩きながら固い握手をしている。


「あと、あみちゃん!言葉遣いには気を付けなさいね。とっても可愛いのにあの言葉遣いをしていたら台無しだわ。」


あみはキョロキョロしながら目が点になっている…状況を全く把握出来ていない。


平和教の聖地に行って、ベムが出て来て…あれっ?あれ?


「あっ、よしえさん!ん?武志さんって…あぁ、この人のこと?とっても優しそうな人だね!んー、よくわかんないけど良かった良かった!」


肩を寄せて見つめ合う武志と幸子。


「よしえさんって、幸子のことかい?」


「ふふっ、そうよ。私はあみちゃんに心を生まれ変わらせてもらった。よしえになったの。」


幸せそうな二人は手を取り合い、ガリガリジジイと共にあみとまだ何も気づいていない康平に頭を下げると、どこかへ消えて行った。


3人を見送ったあみは一つ疑問に思う…よしえさんと武志さんは良い関係っぽいけど、あの痩せてるおじいさんはなんだったんだろう…なに?付き人?もお、よくわかんない!


「っていうかあたま痛っ!これいつもの頭痛じゃないよね、どっかにぶつけたかな…いたたたた…。」


あみは頭をさすりながら自分の体に重なった。

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「ただいまぁ、はぁ、疲れた。喉乾いた!」


「あみちゃん!どこ行ってたの!!あみちゃんずっと動かないから、店員さんに変な目で見られてて、こっちまでドキドキしちゃった。」


「ごめんごめん!でも、よしえさん洗脳から溶けて自由になれたみたいだよ。」


「そうなんだ…良かったねよしえさん!」


その話を挟まれて聞いているほっくんが、ポカーンとした顔で質問をしてきた。


「よしえさんって誰??」


「ああ、んーと、ほっくんになら教えても大丈夫かな…?」


俺は二人にこれまでどんなことが起こったのか、なぜ二人がいつも一緒に居たのかを説明してみた…。


「そういうことだったんだ。あみ全然帰ってこないし、さめちゃんとずっと一緒に居るみたいだったから、どうしたのかなって思ってたけど…俺も一緒にあみを守るよ!許せねえっ!」


これまで二人きりで頑張ってきたが、小さな仲間が一人増えた。話せばわかってくれる人もいるんだ。俺の心にぎゅっと強く結ばれ張りつめていた縄が少し緩んだ感覚と共に、鼻から小さなため息をついた。本当に嬉しかった…。


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