第35話

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「幸子のことをずっと、ずっと探し続けていたんだ…。いきなり連絡をくれなくなっただろう?風の便りでここに勤めていると聞いて、僕は何回も、数えきれないほどここを訪れたんだよ。何回もしつこく訪ねるから、変な人だと思われちゃったのかな。途中から門前払いされるようになっちゃってさ…。」


「そんな…私、武志さんに本当に酷いことを…。」


「何かあったんだろ?大丈夫、ずっと信じてたから、幸子のこと。それから僕も歳を取って、ここへはあまり来られなくなってしまった。死ぬときはポックリ逝けたから、そこら辺はほんとにラッキーだったね!」


「まさか武志さん…ずっと独り身で?」


「ん?そうだよ?幸子は結婚したのかい??」


「…はい。」


「そりゃめでたい!って今更遅いかっ!幸せな人生を送れたのかな…??」


「そう思おうと、自分に言い聞かせていました…。」


「辛いことがあったんだね…。僕は死んでからもここをしつこく訪れてこの有様さ、結局捕まっちゃった。でもそのお陰で幸子に再開することが出来た!!平和教の神様に感謝しなくっちゃね!」


「武志さん…変わらないのね。」


「とりあえずここを出よう!募る話はそれ…」


ドゴォォオオオン!!!


扉が蹴破られ、そのまま部屋の方に轟音と共に扉が倒れてきた。物凄い砂煙が巻き起こり、おどろく幸子が晴れ始めた砂煙の中から見たものは…


「ゲホッゲホッ、まさか…あみちゃん!なんてはしたない!」


「おばさーん、こーんなところに居たのかよ!どーぉんだけ探させんだよ。ったりぃーなー。なんだ、知らねーじーさんも一緒か。あ、この人?この人がおばさんの愛おしの人か?え?え?さっきこいつが背中さすってた時にうち読めちゃってたわ。ほーんと、こいつって何でも出来んだな!あとこのガリガリジジイ、外で盗み聞きしてたぞ。」


あみに首根っこを掴まれたガリガリジジイは、幸子の方へ放り出された。


「…あなた!!」


「幸子!!ああ、あ、あの、その、本当に済まない!お前がここに閉じ込められてるって聞いて…。」


「違うの!私こそごめんなさい!私は自分の事だけを考えてしまう愚かな人間に成り下がってしまっていた。あなたのことも…。」


「いや、それはいいんだ。そんなこと最初から気づいていたんだよ。俺もお前と一緒だ、自分の徳を上げることばかり考えていた。それをお前に知られるのが怖くて、お前に合わせる顔も無いし隠れて生活していたんだ…。武志さんをずっと追い払っていたのも俺なんだ!…すまん。」


突然の状況に4人の間で沈黙が流れる。それを破るのはヤンキー座りをしているやっぱりこの人。なんか変なあみだ。


「でさー!!どーぉすんだよ!!もじもじしてねーでどーぉにかしろよ!!」


口をパクパクさせながら、ガリガリジジイが口火を切る。


「あ、あの…幸子を貰ってやって下さい!!」


突然の告白に再び沈黙が流れる。あみはガリガリジジイの肩をがっしりと掴みゆっさゆっさ揺らしながら嬉しそうにしている。


「おめーいい奴じゃーん!わかってんじゃーん!!つーことでおばさん、そいつのこと好きなんだろ?そいつと一緒になれ。素直になっちまえってー。」


「わかりました。幸子さんは私が一生幸せにします!」


「ちょ、ちょっと!武志さん!!」


「じーさんおもしれーこと言うな!一生って…お前らもう死ーんでーんじゃーん!!まっ、大縁談ってことで!撤収するぞ。なんかやべーやつが近づいて来てる気配がする。」


「もしかして4代目様かも…でもちょっと待って!私たちの骨壺はまだここにある。それがないと、そのうちすぐここに引き戻されてしまう。」


「はぁー?骨壺ー?それどこにあんだよ。」


「大庭園の平和樹の下に隠し通路があって、その…」


「あ、やっぱいーや。部屋の外にさ、殴るとなんでもすぐ教えてくれる人形用意してあっから。そいつに聞くわ。まだ少しだけ暴れ足りないんだよね。なーんか昔を思い出しちゃって。こう…喧嘩してた時の??」


あみは皆に自分のスパーリングを披露するが、あっけにとられ誰も反応出来ない。


「よし、じゃっ行ってくる。あ、骨壺に多分名前書いてあんだろ?二人ともフルネーム教えろ。」


名前を聞き終えると、あみは部屋の外へ向かう。そこに倒れている顔が腫れ上がった黒スーツを片手で持ち上げ、有無を言わさずパンチ!


「おい、骨壺の在り処教えろ。さっさと吐け。」


黒スーツから教わったこの部屋には数えきれないほどの骨壺が並んでいる。


「げっ、まじかよー。お、でも名前順に並んでんじゃん。んーと、これがおばさんのだな!」


骨壺を持ち上げると、実際の骨壺とは別に半透明の骨壺が現れた。2つの骨壺を抱えあみが帰って来る。


「はいこれ。おばさんのと、こっちがガリガリジジイのやつ。」


「あみちゃん…本当にありがとう。」


「お前らとりま早くうちの体に掴まれ。撤っ収ぅ!!」


全員があみの体に触れると、上の方へ吸い込まれるようにシュンッと消えた…。




その2時間前。




ベムはあみにゆっくり近づきながら再び問いかける。


「さぁ、どちらを捧げるんだ?あのババアか、それともお前か?」


どうしよう、もうベムを消すしかない。そんな力今の私に残されているのかわからない…でもだめだ、頭が痛すぎて力が入らない…どうしよう、どうしよう…。


あみは一瞬フラッとすると、そのまましゃがみ込んでしまった。しゃがみ込みながら何かをブツブツと呟いた。その様子を不思議そうに上からベムが眺めている。


「おい、なにを喋っているんだ?はっきり言ってみろ。」


「何にも出来ないくせに…。」


「は?」


「何にも出来ないくせに…きままに勝手な行動取るんじゃねーこのバカ女ああああーーーっっ!!!!」


あみが大絶叫しながら物凄い勢いで立ち上がり、ベムのアゴがきしむ音が離れたところからでも聞こえるほどの頭突き攻撃がクリーンヒット。


ベムは予期せぬ攻撃に顔を押さえながら嗚咽を吐いている。


「グフォッ!…お前、まさかこの前も…。」


「あー、まじでイライラする。」

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