第31話

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私は平和教に救われた。私が人生のどん底にある時、家のポストに入っていた平和教新聞。暇つぶし程度に読んでいたが、書かれている平和教の理念にどんどん惹かれて行った。


どんな人でも幸せになる権利がある。皆で手を取り合って平和な世界を築きましょう。こんなダメな私でも幸せになれる権利があるの?こんな私にも手を差し伸べてくれる人が本当にいるの?


それを確かめに、新聞に書いてあった平和教の教会を迷う気持ちもなく訪ねていた。そこに居た人たちは私をすぐ受け入れてくれた。体の悪そうな人や、見た目からして元気のなさそうな人もいるが、皆お互いを尊重し合い助け合うように活動をしていた。


何度も教会を訪れ、そのうち私は悩みすら忘れるようになっていた。こんなにもやさしい人達と巡り合わせてもらい感謝の気持ちと共に、平和教の素晴らしい理念を私のように悩んでいる人にも伝えたい。苦しみから救ってあげたいと心から思った。私は平和教への入信を決めた。


入信してからは何に対しても自信に満ち溢れ、恋人も出来た。結婚の約束もしてくれた。夢に描いていた様な順風満帆な人生。私はもっと平和教に尽くしたい。平和教の聖地で平和教のための仕事をしたいと思い、聖地に身を置き聖地で働ける専従者になるための試験を受けた。


沢山平和教の教えを勉強し、試験を通過。私は晴れて平和教の専従職に就くことが出来た。大変なこともあるけれど、毎日平和教と共に出来ることに幸せを感じていた。仕事に熱中する毎日。恋人とは会える機会が少なくなっていった。結婚の約束も引き延ばしてしまっている。


そんな中、教団からお見合いの話を持ち掛けられる。相手は私と同じ専従者だ。教えでは専従者同士の婚姻はとても素晴らしいもので、それだけで徳を積むことが出来るし、幸せを揺るぎないものにしてくれると覚えている。


私の心は揺らいだ。私を心から愛し信じてくれている今の恋人、そして平和教の教え。どちらかを選択しなければならない…私は後者を選択した。


自分で選択した道。絶対に後悔したくないし、平和教のお導き。私はもっと幸せになれる。専従者の夫との間には子供も授かり、皆に褒めたたえられた。平和教信者の鏡だと。


夫と私は専従職を勤め上げ、夫は私より先に旅立った。夫の骨壺は聖地の庭に大きくそびえたっている平和樹。その地下にある部屋に永久埋葬された。そしてその後は私も。


目覚めると私は聖地にいた。死後は天界の教主様のところへ行けるはず、教えではそうなっている。迷っている私に、私より先に亡くなっている4代目教祖様がいらっしゃった。私にはまだ天界に上がれるまでの徳が足りていないらしい。地上でもっと修行し徳を積みなさいと。


先立った夫の姿を探すが見つからない。夫はきっと先に天界に上がることが出来たのであろう。私も早く徳を積み天界へ上がらねば。


私は生前と同じ様に平和教の布教活動に身を置き、さまよっている大勢の人たちを聖地に導いた。そしてある時4代目様からお呼びがかかった。きっと徳を積み終えたに違いない。


4代目様から一つの提案がなされた。今平和教の将来を揺るがすほど大切な事案が一つある。これを成し遂げることが出来ればいっきに天界まで上がることが出来ると。


天界へ上がれるのであればどんなことでもやりたい。私は大手を振って立候補した。しかし、もしその事案を成熟させることが出来なければ、皆に示しがつかない。教主様に抹消という浄化を受けると…。私は戸惑った。でもこんな機会次にいつあるかわからない。私が知る限り天界へ上った人は夫しか知らない。私はどんなことがあってもやり遂げると4代目様に誓った。


4代目様の手が私の額に伸び、視界に黒い煙がかかる。その後のことはほとんど覚えていない。そして私は今ここにいる。あの娘をなんとしてでも聖地へ導く。それが私の仕事。


私の愛するあの人をたぶらかし、いつでも一緒にいる。絶対に許せない。私の力を最大限利用しあの娘を困らせてやった。どんどん体調が悪くなっていく。このまま弱らせて聖地まで連れて行こう。


でもなぜ諦めない?普通の人間であれば寝込んで立っていられないほどの頭痛を引き起こしているはず。それでもあの人の前ではいつも笑顔を振りまいている。絶対に渡さない!あれだけ愛し合い信じ合っていたあの人、私が平和教を選び裏切ってしまったあの人…。目の前にいるのに!!何で?何で何で何で!!あの娘にそんなにやさしくするの…?


日が経つに連れ視界の煙が晴れてきた感じがする。煙が薄くなるほどに私の意識もはっきりしてきた。あの子たち、あんなにつらい目に合わせているのになぜか幸せそうに見える時がある。まるであの時の私たちの様…。あの人はあれからどうしていたのかな…幸せになれたのかな。なぜだか涙がこぼれてくる。


私は毎日あの子を困らせていたぶって…平和教に入信したのは皆を幸せにしたかったからではなかったのか?なぜ人を苦しめる様なことをしているの?


そして2月28日の今日。私は一つの決断をした。

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