第30話

渋滞に巻き込まれもしたが高幡不動尊に到着。護摩炊きの時間にも丁度間に合った。新勝寺ほどの広さではないが、立派なお堂で中には沢山の人が集まっている。


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「こんにちは~…。」


そうあみが挨拶をすると筋肉粒々な不動明王が挨拶を返してくれた。


「お待ちしておりました。お久しぶりで御座います照勤殿。新勝寺のお不動様よりお話は聞いております。大変な目にあわれているそうですね。」


おおおおお!この人一番普通!怖い感じでもないし、おちゃらけてもいない!どんな人かと思って緊張してたけど、良かった…。てゆうかアチャさん、色々な人に声かけてくれてるんだ。


「護摩炊きでは来ていただいている皆様平等に対応させてもらっていますので、後ほど裏の奥殿にお越しいただけますか?」


「は、はい。わかりました。」


不動明王の言葉を伝えようと隣を振り向くと、いつも通り護摩炊きの炎を見つめ一心に手を合わせている康平がいる。

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「さめちゃん、あとで裏に来いだって。」


裏…!?なにそれ怖い。怒られるの!?悪いことした!?やっぱり不動明王の仏像はみんな怖い顔してるからな…。


護摩炊きが終わり、言われた通り奥殿に入ると様々な展示品と、大きな金色の不動明王の像が座っていた。


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二人が到着したと同時に何かがシュンと金色の像に入る。


「お待たせいたしました。微力ですが、私の力をお役立てください。」


不動明王はアチャと同じように康平の頭上に金色に輝く剣を振る。


「あの、さめちゃ…照勤と前に会ったことあるんですか?お久しぶりですって言ってたから。」


「はい。私どもは真言宗智山派というところに属しております。新勝寺のお不動様もそうです。智山派の総本山が京都にありまして、5年に1度皆が集まる機会があります。そこで何度かお目にかかりました。」


「そうなんですか…。」


「照勤殿は本当に素晴らしいお方です。いつも笑顔で、どんな人にでも分け隔てなくおやさしい。珍しい霊能力をお持ちの方で、私の考えも全てお見通しになられているようでした。」


「お見通しって、心を読まれてたってこと?」


「そこまでは存じ上げませんが、どんな相談事も親身に聞いて下さり、私の心の支えでもありました。」


出た出た、みんなあいつのことをべたぼめする。あの二重人格DV男。そうだ、ダメ元で言ってみよう。


「あの、私にも力貰えませんか!?」


「あなたは元々照勤殿の様な類まれなる力をお持ちのはずです。私の力など及びません。今の照勤殿に我々の力を注ぐことが出来るのは、以前にとても辛く長い修行をされていたからこそ。その器は生まれ変わってもそのまま受け継がれているのです。」


「そうなんだ…。」


しょんぼりするあみに不動明王は語り掛ける。


「そう落ち込まないでください。あなたのお持ちになっている数珠を出していただけますか?」


あみは腕にはめている数珠を不動明王の方に向ける。不動明王は数珠のほうに掌を向けると、数珠は黒い炎で包まれ、その炎は数珠に吸い込まれていった。


「私の力をその数珠に放ちました。どうぞお役立てください。」


「えええ!ありがとうございます!!」


やったーーっ!!私も念願の仏グッズゲット!!

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康平が手を合わせながらあみの方をちらちらと覗き、小声で問いかける。


「あみちゃん、ねぇあみちゃん。終わった?まだやってくれてる??」


「ああぁ、ごめん!もうやってくれたよ!!」


「そかそか、ありがとうございます。不動明王さん。」


奥殿を後にする。


「そういえば、高幡さんが御朱印を集めてみればって言ってた。」


「高幡さん?ああ、高幡さん、高幡さんね…御朱印って何?」


「私も知らなかったんだけど、そのお寺だけの文字?を書いてくれるんだって。それを本にして集めれば力になるって言ってた。」


さっそくウィキペディアで調べてみる。


「んーと、これだ。主に日本の神社や寺院において、主に参拝者向けに押印されている印章、およびその陰影。敬称として御朱印とも呼ばれている…だって!」


俺らは御朱印所に向かう。そこで青地に金の龍が描いてある御朱印帳を2つ購入。御朱印を書いてくれる人は3人ぐらいいて、俺らは一番達筆そうな熟練っぽいおじさんに御朱印帳をお願いすることが出来た!返ってきた御朱印帳をウキウキで開いてみる。


「何か…字、汚くね?」


「うん…汚い。」


記念すべき御朱印帳の第1ページ目は何とも言えない達筆?というか正直汚い字の御朱印が刻まれた。これ習字で書いてあるはずなのに、俺らのだけマジックで書いた?ちょっとショックだ。


「さめちゃん、私の数珠、高幡さんが力を入れてくれたんだよ!」


「えー!あみちゃん凄いじゃん!ずっと自分も力欲しいって言ってたもんね!良かったね!」


「ほんと!超うれしい、宝物にする!」


と言いながらあみは嬉しそうに太陽に数珠を掲げると、数珠の玉一つ一つに高幡さんの顔が映っている。


「うわっ、なにこれ!びっくりしたぁ…。」


「どうしたの!?」


「何か数珠の玉全部に高幡さんの顔が映ってる。目が時々動くし気持ち悪い…。」


「ぷっ、ブぷぷっ!でもよかったじゃ~ん!ずっとほしいって言ってたし、ちょっとごめん笑いすぎておなか痛い!」


「何それ煽り!?」


お寺に来て一番面白い日になった気がする。


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