第29話

それからもお互いの生活を送りながらも合流し続ける日々が続く。般若心経は教本を見なくても唱えられるまでになった。数珠を毎日教本の上に乗っけて般若心経を唱える。


数珠には悪いものを寄せ付けない代わりに穢れが溜まっていくらしくて、この方法で浄化出来るらしい。墓地の坊さんお化けが教えてくれた。


般若心経って何でも出来るお経なんだなあ、何でだろ。書いてある意味とか全然分かってないのに。


今日は関東三大不動の高幡不動尊に車で向かう。カーナビ通りに進むがさすが東京。道が混んでいる。会話も弾むがネタも無くなりふと口癖の般若心経を呟いた。


「さめちゃん…後ろの席に頭から血ぃ流してる女の人がいきなり座ってる…。」


やば…。なんでだろ。悪いお化け??


「多分、さめちゃんがお経唱えてる時の光に反応してるんだと思う。窓の外にも一生懸命手を合わせてる夫婦みたいなお化けも来てる。」


ええええ、ほんとどうしよ…。


「ちゃんと最後まで唱えてみて!」


運転しながらも般若心経を頑張って唱えてみる。お願いだ、いなくなってくれ!


「うん、みんないなくなった…。後ろの女の人、消える直前にありがとうって言ってたよ。」


よかった…。般若心経で消えたってことは、成仏したってことになるのか?


「般若心経を唱えると、あみちゃんが見ててお化けってどうなるの?」


「んとね、途中から体の下の方から白いもやもやに包まれ始めて、最後のぎゃあてい ぎゃあてい はあらあぎゃあてい っていうところでみんな消えて行った。すごいよさめちゃん!お化けを成仏させることも出来るようになっちゃった。」


「そうなのかな…。」


「うんうん!多分普通の人が唱えても成仏させることは出来ないと思うよ。前にテレビで見たことがあるんだけど、四国八十八か所巡りってあるでしょ。四国のお寺を巡るやつ。あれをおばさんたちが歩きながら般若心経を唱えて巡って行くんだけど、般若心経を唱えてるおばさんたちにどんどんお化けが集まってきて、体とか足にいっぱいしがみ付いてた。何回もお経唱えてるけど消えることなんてなくて増える一方。おばさんたち凄く歩きづらそうにしててちょっと笑っちゃった。」


「そんなに沢山かわいそうっていうか、さまよってるお化けっているの?」


「昼間はあんまりいなけど、夜になると増えてくるね。太陽が沈むと?普通に生活してるお化けの人たちは昼間から沢山いるけど、夜になると変なお化けが増えてくる。私が思うに夜に出てくる系の人たちは何も見えない真っ暗な世界に住んでいて、いきなり現れたさめちゃんの光、光の放つ暖かさに救われたいっていう一心で近づいてくるんだと思う。多分そんなタイミング無いから…。」


成仏?っていう言葉は昔から知っているし、死んだ人間は成仏というものを必ずすると思っていたけど。本当の世界はそうじゃなかったんだ。成仏しないでさまよっている人たちはなぜそんなことになってしまうんだろう。何だかかわそうに思える。


「仏の力?があれば般若心経を唱えるとお化け成仏させることが出来るけど、力が無い人の般若心経にも集まって来るんだよね?さっきのあみちゃんの話からすると。」


「そうなんだと思う。光の出ない般若心経は、味も食感も無いけど、見た目は凄く美味しそうなケーキに見えちゃう。みたいな?」

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