第25話

あみちゃんは篠田さんとのやり取りを説明してくれた。正直どうしたら良いのか本当にわからない。でもなんとかしなくちゃ。自分がまいた種であみちゃんをここまで巻き込んでしまっている。絶対に弱音なんて吐けない。


その後同じような日々を続けるが、あみちゃんの状態は悪くなっていく一方だ。平和教の力による頭痛、ババアの呪いのゴニョゴニョ。毎日監視される日々。話しかけても返答がない時もあるし、意識がもうろうとしている様な時もある。


もちろんあれから何度もバトった。喧嘩とかじゃなくていつものあのパターン。その間あみちゃんが逃げないように手を握り続けているから、俺の両手の親指の付け根は傷だらけだ。

なんなら胸筋も付いてきた気がする…。


本業のスーツで行ってる仕事の方はほとんど行けてない状態。リモートで出来る仕事は家でやっているらしい。どうしても行かなきゃならない時はあみちゃんの終業に合わせて仕事場の横浜駅まで迎えに行った。


あみちゃんの子供たちとも大分仲良くなれた。一緒にご飯を食べに行ったり、ゲーセンに行ったり。


この間成田山新勝寺に何度も足を運んだ。ひどい時は週1で行ってたっけ。ガソリンを補給するイメージ?不動明王の力は使えば使うだけ無くなるものみたい。貰った力を自分次第で増幅することも出来るし、無くしてしまうこともあると。


あみちゃんの話だと、平和教のやつらが近づいてきた時とか、他の変なお化けが近づいてきた時に勝手に力を放出しているらしい。


そして新勝寺の不動明王さんにもついにあだ名がついた。ファミレスで時間を持て余している時に、スマホで不動明王について色々調べたところ、インドのシヴァという神様が日本に伝わって不動明王になったという説があり、その異名がアチャラナータというらしい。


アチャラナータ…長いからアチャさんでいいべ!面白い名前を付けてクスクスと笑い合ってたな、あの時は。先の見えない毎日の中でも、少しでも楽しいことを見つけて笑っていたかったんだと思う。


篠田さんも平和教の二人と同様相変わらず来ているらしいが遠目から見ているだけで特に行動はなし。いつかババアと交代するのだろうか。


そして今日は2月3日の節分。新勝寺で大規模な豆まき祭りを行う日。あみちゃんの頭にアチャさんから今日必ず来なさいと声をかけられたらしい。


さすがテレビでも毎年中継されるほどの大きなお祭りで、物凄い人込みだ。やっとの思いで本堂の前まで辿り着いた。


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「よっ!」


本堂の中からひょこっと現れたのは、大山寺の不動明王、大山さん。


「大山さん!!なんでこんなところにいるの!?」


「この日は新勝寺が忙しいから、俺も手伝いに駆り出されるってわけよ。そういえば、俺もスマホを手に入れたんだぞ!!」


自慢げにあみに向けてスマホを見せつける大山さん。大山さんの手が大きすぎてスマホが小さく見える。


「お前から教えてもらった通り、本当に久しぶりに町に出てみたわけよ。時代は変わったんだな。畑も田んぼもほとんどない石の道を馬が引っ張ってない馬車が沢山走ってて、異国になっちまったようだった。携帯ショップっていうやつをひたすら探してやっと見つけたぞ。店番のやつが丁寧に説明してくれてさ、死んだ後もあんなことしてる奴らいるんだな。」


「そのまま仕事続けてる人沢山いるよね。」


「お前、モンスターストライクやってるか?この前10連ガチャで3つも☆5を手に入れたぞ。あれは本当に面白いな。」


「子供たちがハマってるよ。最近私も始めたし、さめちゃんもやってる。」


「そうかそうか!今度マルチってやつ一緒にやろう。他の奴らと一緒に出来るやつがあるみたいなんだ。」


「うん、いいよ!私下手だけど。(というか一緒に出来るのか…?)」


「よし、待っているぞ。あれからまだお前1回も来てくれないじゃないか。最近どうしてるんだ?まだつけられてるのか?」


「ごめんね、色々忙しくて。あいつらはまだ着いて来てるよ。」


「大変そうだな。まぁ、二人で力を合わせれば何とかなるだろ!ガハハハハハ!」


人ごと…大山さんってこんなキャラだったんだ。不動明王ってもっと怖い人ばっかりだと思ってた。癒されるな。


「そういやあ、あいつが中で待ってるぞ。今日は相当気合入ってるみたいだな。あいつの力は俺なんかより全然あるから、沢山貰って帰れよ!」

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