第2話
夜中1時。先の休憩は岩田さん。お客さんも疎らだし、陳列の整理でもやるか。
「こんばんは。」
スーツ姿の吉田さんの来店。吉田さんは夜中に買い物に来ることがある。夜中に来る時はいつもスーツ姿だ。聞いてみると、他にも仕事をしているらしい。そっちが本業で、こっちが副業みたい。
お客さんも来ないし、ため年トークが弾む弾む。あの子がこうだったとか、あいつは今何してるよとか話してくれるけど、全然顔と名前が一致しない。忌々しい中学の記憶は封印済みだからな。
「明日も帰り遅いから、卒業アルバム持ってきてあげるよ!」
スナック菓子の陳列を手伝いながら吉田さんはそう言った。次の日、吉田さんは本当に卒アルを持ってやって来た。先の休憩を貰い裏の事務所で一緒にアルバムを開く。
自分を探してみるが、何組だったのかさえ記憶にない。吉田さんは1組だったんだ、俺は6組だったみたい。たしか1組と6組って棟が離れてるし、面識が無くてもありえなくはないか。
「私、中2から学校ほとんど行ってなかったんだ。」
ちょっと衝撃の事実。中1の頃お父さんが亡くなって、それまでは勉強も部活も頑張っていたけれど、糸が切れたかのようにやる気を喪失してしまって、クラスにはほとんど登校しななり、時々特別学級に通っていたとのこと。
特別学級は1年生から3年生まで同じ教室で、いじめや色々な事情でクラスに馴染めなかった生徒が通うクラスで、他の学校から登校してくる生徒もいたらしい。皆同じような境遇な子が集まっているので、静かだし仲良が良いし、なにせスケジュールがとてもゆるいクラスだったらしい。
衝撃の事実。俺は中学生活3年間いじめられ、気持ち悪がれ、親にも相談できずに先生からも見て見ぬ振りをされ、それでも耐えて我慢して死に物狂いで中学を卒業したというのに。そんな素晴らしい環境のクラスがあるなんて知らなかった。
「中学の頃から友達だったら、絶対特別学級に誘ってたのになー。」
友達もいないのに京都の修学旅行。まさに地獄。特別学級の生徒は修学旅行として、としまえんに行っていたらしい。なんという格差。
でもやっと友達が出来たよ。中学生の頃の俺、少しでも報われたかい?
それからスーツ姿の吉田さんはよく訪れるようになり、俺の休憩時間はお喋りの時間に変わった。
岩田さんも普通に吉田さんのことを迎え入れてくれるし、時には駅前の手羽先をお土産に買ってきてくれたり、お店のお菓子を食べながら色々な話をした。
吉田さんとのお喋りは本当に楽しい。やっぱりタメって最高だ。
ある日、吉田さんは来ると予定してた日に来なかった。
どうしたのか連絡してみたところ、この前テレビの怖い映像特集を見ていた時、画面にお化けの映像が映って目が合ったと思うとすぐに高熱を出し、2日間寝込んでいたらしい。
大丈夫かな、吉田さん。
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