7-2「収集家」

 それからわたしたち二人は駅を挟んで反対側にあるショッピングモールへと向かった。もちろんシアターでシベリア超特急を観るためではなく、モール内に併設されている市立図書館に行くためだ。


「やっぱり混んでるなあ」


「日曜日だし」


 家族連れ、高校生カップル、おじいさんおばあさん……色々な人たちが、楽しげに行き交っている。久しぶりに来たけれど、シアター六番最奥以外は孤独な魂にとって生息しづらい場所である。


 沢本と縦に並んでエスカレーターに乗り、全力ダッシュで駆け上っていく小学生(と、「待ちなさい。待ちなさいったら」と言いながら追いかけていくお父さん)を横目に、しばし沈黙を友とする。


「深山のお父さんてさ」


 図書館のある三階まで上って、再び横並びに歩き出したところで沢本がそんな風に話を切り出してきた。


「休みの日はどんな感じなの?」


「最近は母さんと一緒に出かけることが多いかな。わたしが小さい頃はよくキャッチボールに誘ってくれたけど、もうそんな歳じゃないから」


「ふーん」


 沢本はそう言って、口を尖らせる。気を悪くしたわけではないだろう。ただ、自分の気持ちの置き所がわからないというような表情だった。


「この間挨拶したときも思ったけど、結構家庭的だよね」


「そうかな。あんまり意識したことなかったけど」


「もっと家族を大切にしなさい。孝行したいときに親はいないんだから」


「……沢本がそういうこと言うなよ」


 やがて、図書館の入り口が近づいてきた。


「沢本はどうする? 複写は自分でやることになると思うから、それなりに時間がかかると思うが」


「奥の席で何か読んでるから、終わったら声かけて」


「わかった」


 短いやり取りの後で、わたしは正面のリファレンスカウンターへ、沢本は郷土資料のコーナーへ、それぞれ歩いて行く。


「深山さんですね。お待ちしていました」


 リファレンスカウンターの向こうに座っていたのは、神経質そうな感じのする男性の司書だった。


「――それでは一緒に資料の確認をお願いします」


 司書さんは奥の方から山盛りの新聞紙を持ってきて、カウンターテーブルの上に置くと、プリントした一覧表との照らし合わせを始めた。腕が少しぷるぷるしている。


 わたしが請求した資料はハンマーキラー事件に関する新聞記事だった。地方紙だけでなく全国紙もできるだけ調べたいと伝えてあったので、すごい量になっている。

 

「お渡しした資料は全て禁帯出となっております。著作権法で認められる範囲での複写をご希望の場合は、館内にあるコピー機を使用して行ってください」


 司書さんが機械音声みたいな声で言ってから、無意識の所作で腸腰筋の辺りをグリグリやる。ひょっとしたらわたしが請求した資料を用意する際に腰を痛めたのかも知れない。わたしは心の中で司書さんにロキソニン入りの湿布を貼ることをオススメしつつ「ありがとうございます」と頭を下げて、新聞紙の山に手を掛けた。


 うん。やっぱめちゃくちゃ重いな!

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